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小さいおうち (2013)

監督
山田洋次
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3.62 / 評価:1569件

黒木華が描く“タキの罪”

  • UrbanDockGoer さん
  • 2014年1月26日 14時09分
  • 閲覧数 9603
  • 役立ち度 117
    • 総合評価
    • ★★★★★

これは良かった。 今年初めて胸が熱くなった作品。

物語はタキ(倍賞千恵子)の葬式から始まり、生前に書いた自叙伝で、タキの女中時代(黒木華)を振り返る形で進む。女中時代の奉公先での出来事を奥様(松たか子)の許されざる恋とタキの秘められた想いを中心に語られる。


黒木華の演技が出色。 タキの女中という立場をわきまえた、出しゃばらない、一歩引いた態度、その中でも、喜び、悲しみ、苦しみを控え目な言動の中に絶妙に表現している。 予告に使われた例のシーンも、あれだけを見ると、ちょっと出しゃばった女中に見えるが、全編を見ると、あのときは如何に激しい葛藤がタキの中に湧き起こっていたかが伝わって来た。 彼女の作品リストを見ると、これまでも3作品で彼女を見ているはずだが、これまでは目に留まらなかった。 でも、これからは出演作をしっかり、チェック!

黒木華以外の出演者も確かな演技で、質の高い作品にしている。ベテラン陣の達者な演技は随所に笑いも織り込んでくれる。 年老いたタキ(倍賞)と健史(妻夫木)の関係も微笑ましく、温かい空気感がとてもいい。 そしていよいよ物語の〆という部分に登場した米倉斉加年(奥様の息子の晩年の役)。 その存在感はさすがで、その僅かな時間の演技に思わず目頭が熱くなった。

1つだけ文句を言うならば、奥様(松たか子)が一目惚れする板倉(吉岡秀隆)にはもっと小ざっぱりした格好にして欲しかった。徐々に惹かれるなら別だが、あのむさ苦しい体裁の男に一目惚れは違和感有り。


この作品、表向きには主演は松たか子ということになっているけれども、物語の流れからも、その存在感からも真の主演は黒木華。彼女演じるタキの、けなげで、切なく、熱い心情が本作の主題。 エンディング近くで登場する板倉の絵「思い出の小さいおうち」に奥様と一緒にタキもしっかり描かれていることに救われる思いがした。 ただ、同時にその絵も人生を救った奥様の息子の気持ちも知ることもなく、一人でこの世を去ったタキを思うと切なくなった。

そして最後に明らかになるタキの犯した罪をどう思うか。それが鑑賞した人がもれなくもらえる楽しい“宿題“です。 



一方、この作品は“永遠の0”とは別の切り口で、太平洋戦争を描いている。この作品では、軍隊は一切出て来ないが、一般国民、戦争へ行かなかった人々にとっての太平洋戦争が描かれている。
  
妻夫木聡演じる健史が作中で言うように、戦争を知らない世代が想像するよりその時代の人達は日米開戦直前でも意外に明るい。明るいというより、呑気だ。 悲壮感などなく、経済への影響がどうとかいうところに関心が行っている。 多分それもまた真実なのだと思う。 政府の世論操作があったにしても、軍部の戦争推進派だけの問題でなく、一般国民にも危機感が無かったことが恐ろしいところだ。 景気や満州などの既得権益を犠牲にしても日米開戦を避けなければならないという危機感は国民にも無く、  悲惨な結末を想像することもできずに太平洋戦争になだれ込んでしまったのだろう。 

現代でも国民一人一人が不戦の意識を常に強く持っていなければ、いつの間にか過ちを繰り返す恐れがあると改めて思う。 そんなことも考えさせられた作品。


本作の作風は古典的邦画と言えると思う。 CG等新たな映像技術の活用や奇抜なアイデアも無く、新味は無いが、こういう作品こそが、巨額予算のハリウッド映画に対抗できる邦画の生き残る道なのだと思う。 全ての邦画がこうあるべきとは言わないが、こういう映画も邦画の王道として是非引き継がれていって欲しいと願う。


映画を見続けていると、たまにこんな作品に出会えることが幸せ。

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