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家路
2014年3月1日公開

家路

1182014年3月1日公開

msc********

5.0

ネタバレ種にはなれない。

4年前の今日、私は2歳の息子と関西の実家へ帰省しました。帰省という名を借りての退避。東京に戻ってきたのはその1か月後でした。 4年前の今日は日曜日で、夫に東京駅まで送ってもらったんですが電車はのどかで、まだ原発事故の詳細なんて爆発の映像が出ていたくらいで何が起こっているのかわからない都心の雰囲気。新幹線も普通に空いてて、避難する人が殺到している図を想像した私にとっては拍子抜けしたことを覚えています。今日はあの日ととても気候が似ていておだやかな快晴です。 そんな快晴を見ながら、もしこの映画が4年前以上昔のものであり、その頃に私が見ていたなら「ファンタジーだなぁ、想像もできない空虚な世界の映画だな」と酷評していたかもしれない、と思いました。映画というのは本当にその時代背景とその人の経験が「ある視点」を作るのだと痛感。 この映画は福島の現状避難を続けている人たちにはまだ過酷で見られない、感情を揺すぶる映画だと思います。その観点から言うと、この映画もやはり「当事者じゃない人が見て、思って、考える映画」です。ただ、11日に「遺体」の映画を見た私から映画的観点を言うと、キャストは本当に素晴らしく、そこに生きている感がきちんと出ています。そして、何よりも脚本が素晴らしい。言葉数が少なく説明は足りない感じもするが、そこを映画の流れで理解させていく「足すのではなく引き算の脚本」があり、だからこそキャストの演技が生えるのだと思っいました。そして音楽は最小限で、鳥のさえずり、蛙の鳴く声、虫の音が聴こえるところ、そして決して目に見えない放射能であることが、この映画をとても「美しく」しているのが、何とも切ないなと思いました。切ない。 放射能について、原発についてをテーマに置きながらも、家族間の問題もきちんと描かれています。特に内野さんが演じられた兄の「父に認められたい呪縛」は私も同じものに囚われていた身として切なく思うし、弟は自分よりずっと優秀で優しさを持っているのに、その弟の人生を駄目にしてしまったことへの不甲斐なさも、私も妹が優秀なので、同調してしまいました。 放射性物質を含んだ川の水で炊いたご飯、美味しそうだったな。 自分のことだけ考えて生きて行けばいい主人公が少し羨ましいと思いました。そうすれば、何も怖がることはない。自分の思うように食べたいものを食べて、生きたい場所で生きれる。でも、そんな世捨て人は中々いない。みんな家族を背負い、子供の未来がある。途中、主人公は友人に「俺は種になるからいいの」的なことを言うんですが、最後の最後「種」のようになった母親が「どうしてこんなに静かなのか」という言葉の後、初めて少し苦しそうな表情をするのを見て、この人は「種」にはなりきれないんだな。そうだよな。と思いました。 ボケない限り、忘れることはできないですよ。そりゃそうだ。 大好きな田中裕子さんが、昨今「時代や男に縛られる役」で怪演されている映画ばかり見ているので、田中さんがもっと可愛らしい演技している映画を探そうと思います。本当に皆さん素晴らしいキャストでした。 苦しいだけの映画ではないし、希望もちらっと見える映画です。前向きというほど前向きな映画ではないです。でも、見て良かったと思わせる上質の映画でした。

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