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天才スピヴェット
2014年11月15日公開

天才スピヴェット

THE YOUNG AND PRODIGIOUS T.S. SPIVET/L'EXTRAVAGANT VOYAGE DU JEUNE ET PRODIGIEUX T.S. SPIVET

1052014年11月15日公開

つとみ

4.0

ネタバレ東を目指すコミカル西部劇

この作品は喪失に対する向き合い方についての物語だ。 主人公T.S.は弟を亡くした。それは他の家族である父や母、姉にとっても同じだ。 死に対しては「受け入れる」以外の対処法はない。問題はどうやって受け入れるかだ。父はヤギを蹴り、母は甲虫を探し、姉は飼い犬と交流する。 ではT.S.はというと、彼は学者気質の天才で、物事には理由があると考えている。それ故に弟はなぜ死んだのか、なぜ銃は暴発したのか、なぜ実験をしようとしたのか、と理由を考えずにはいられない。理由なくして納得を得られないのだ。 愛されていた弟を失ったこと、そのことで家族がギクシャクしていることは自分のせいではないかと考えている。弟の死の理由はわからなくとも家族の傷心の理由は自分だと思っているのだ。 その一方で、旅の途中で家に電話を掛ける空想の中の家族はT.S.のことを全力で心配しており、本能的に自分も家族から愛されているのだと知っているところは面白い。 西部劇とはまだ見ぬ土地での物語だ。田舎で生まれ育ったT.S.にとってはワシントンヘ向かう東に進む道は彼にとっての開拓。西部劇だ。 彼の家にはないと思っている「弟の死の理由」と「笑顔」を求めて進むアドベンチャー。 しかし着いたスミソニアンにはT.S.の求めるものはなかった。博士号を持っている学者の人々にも「弟の死の理由」はわからず、「笑顔」は作られた偽物だった。 テレビショーのあと、T.S.が無事なことで笑顔になる両親と会い本物の「笑顔」を知る。 そしてもう一つの見つけられなかった「理由」であった、父はなぜ自分を無視したのかを質問する。 父は「見ていなかった」と言った。本当に見ていなかったのだ。 これはつまりT.S.が考えるような「理由」ははじめから存在していなかったことを意味する。 理由のない「偶然」や「事故」は存在する。 天才であるが故にわからなかった、観測できない「偶然」の存在を知りる。 そして「理由がない偶然」の存在を観測できたT.S.は弟の死を受け入れて乗り越えられることだろう。 オーバーなキャラクターとジュネ監督のアートスタイルで楽しく観ることができた。 T.S.が旅の途中で出会う人々も、出番は少ないながらも面白いショートエピソードのようで楽しめた。 個人的に好きなのは、クソガキと言いながら追いかけていた警官が、T.S.が反対側に飛び移り危ない状況になった時に、頑張れ!お前なら出来る!と励ますところだ。 あれだけ悪態をつきながら追いかけていたのに彼のピンチに狼狽える優しさがにじみ出てしまって面白いし、何よりT.S.のこの先の旅をメタ的に応援しているのが良かった。 折れかけていたT.S.の心を励ます良いエピソードだったね。

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