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楽園追放 -Expelled from Paradise- (2014)

監督
水島精二
  • みたいムービー 68
  • みたログ 447

3.92 / 評価:409件

テーマの掘り下げが甘いのが残念。

  • yuki さん
  • 2021年9月10日 22時51分
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

人類・デジタル人類・自我プログラムと、多層的にポストアポカリプスの人類の生を描いているのはわかったが、そこからの先がない。01のデジタル人間(アンジェラ)と自我を生み出したプログラムの邂逅という、攻殻機動隊以来のアイデンティティ・クライシスもさらりと受け流してしまう。人のあり方というのは掘り下げられず、SFアドベンチャーとしての盛り上がりが優先される。この娯楽性への思い切りは虚淵らしいが。

ボーイ・ミーツ・ガールをしたいのなら本作は尺が足りていない。ディンゴとフロンティアセッターとのエピソードが弱いので、「仁義」と急に言われてもピンとこない。構成に必要な山場が一つ欠けているような印象を受ける。
特にヒロインがデジタルワールドと決別する終盤は唐突に感じる。無限の可能性があるとされるディーヴァにも実はメモリ容量という物理的制限があったという設定は魅力的なので、その掘り下げがあればよかったのにと思う。

アンジェラは最後までリアルワールドを毛嫌いしているので、お嬢様がジャンクフードを食べたら感動したというお話ではない。そこがこの映画の変わっているところだ。ジャンクフードが大好きな変なプログラムを応援してたら、なんか天界から追放されちゃったという話だ。

「ディーヴァ」製のメカは精子や子宮がモチーフとなっている。そこを踏まえると、本作の構造が理解しやすい。本作の設定は攻殻機動隊を素地ににしているのは明白だろう。特に押井守の映画版は、自我を持った人工プログラムと草薙素子の融合が物語のクライマックスとなっている。では精子のメカをまとったアンジェラが着床し生み出すのは、フロンティアセッターである。彼はアンジェラと同じく01で構成された”プログラム”であり、同時にディンゴしか感じ得ないロックを理解できる”人間”でもある。つまり人間とデジタル人間のミックスという意味を持って彼は外宇宙に旅立っていくのである。広大な宇宙(ネット)へ旅立つオチも同じだ。
ただ、だからなんだ?となるのも否めない。人間の在り方や01人間のアイデンティティ・クライシスが本作のテーマでは明らかにないし、クライマックスも単なるロボのドンパチで済ませてしまう。意味深長な「要素」としては存在しているが、テーマまでは深堀りされない。それなら最初から語らないほうが潔い。基本的に浅いのだ、この映画は。

アンジェラは管理社会を追放されて地上に生を得る。興味深いのが、ヒロインは主体的に管理社会を抜け出すのではなく、弾き出されて仕方なく反抗する。最適化されたディストピア社会への憧れが完全に否定されないのが虚淵のテイストなのかなと思う。『サイコパス』もそうだが、虚淵の思い描くディストピアはグロテスクさを持つ反面、優雅さ・ワンダーを忘れない。見る角度を変えれば魅力的な社会だ。ディストピアでその社会の仕組みを知りながら体制の仕事に従事する『サイコパス』の主人公は、まさに虚淵の持つ二律背反な未来への憧憬を体現している。

楽園追放も、良くも悪くも未来への憧憬が強い。
この手の話は、地球で”正しい”生き方をしった主人公が、デジタルの世界の在り方に疑問をいだき、地球に降りるというのが王道だろう。しかしこの映画は、地球は埃っぽい汚いところで、デジタル世界は美しく楽しい場所というイメージは最後まで徹底している。虚淵の本音だろう。虚淵はディストピアが好きなのだ。でも物語上、そうは大っぴらに言えないから、ちょっと反旗を翻してみる(が社会を変えるほどの決定打ではない)のが、サイコパスと通づる物語構造だ。
だから、結局は社会という大きなお釈迦様の手のひらの中で、「事件」という小さな物語をアレコレするアニメになる。だから本質的なところへ向かわない。
01のデジタルの人間はプログラムとどう違うのか、とか、権力集中型の社会は間違ってるのではないか、とか、我々人間はどういう生き方をするべきなのか、とか、そういう話はしない掘り下げない。

どれも眼前の犯罪者やロボットを倒すという近視眼的なクライマックスで終わってしまう。虚淵はなまじ腕がいい脚本家のために、テーマを語らなくても面白いものが書けてしまう。それこそSFロボットアクションやポリスアクションだとか。それが欠点だ。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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