1.0点
河瀬っていう人は、ドキュメンタリーっぽく作ることによって映画のリアリティが増すと信じてる節がありますね。 ハンディカメラによる終始ゆらゆらと揺れている映像。カメラ回しっぱなしの非常に長いワンカット。ぼそぼそと聞き取りにくい台詞と、異常に長い沈黙。暗い場所をライティングせずに暗いまま撮る。 現実に起こってる出来事を、何の作為もなくそのまんま撮りましたよ、的な作り方です。 私にはこれがものすごく作為的でわざとらしく見えて、見ていて嫌になり、退屈になります。 旅行して、すごく綺麗な風景だと思って写真をいっぱい撮ったけど、帰ってきてその写真を見たら、その場で自分が感じたものがまったく写真から感じられなくてがっかりした、という経験をしばしばします。 風景にせよ会話にせよ、その場に居合わせて自分が体験したものは、写真や動画に撮りさえすれば残る、いつでも再生できる、というものではない。体験は「表現」しなければ見ている人には伝わらない。表現の工夫なしにただ撮っただけの写真や動画は、次に自分が観客の立場になって見直したら、そこから何も伝わってこない。そういうものです。 冒頭のヤギの屠殺のシーンなど典型的でしょう。 奄美の人々にとっては、これは生活であり、日常であり、生きることの大切な一部です。 しかしその「奄美の人々にとっては」っていう部分を何も描かないまま、ただヤギの首を切る光景だけをいきなりバンと映したら、「内地」の人々は吐き気か寒気しか感じません。ホラー映画か何かみたいに見える。これは奄美の生活の、何の「表現」にもなっていません。そのことをわかってこの映像を取り入れているのだろうか。 河瀬監督自身は非常に大切なものを映像化しているつもりのようですし、実際にそれは大切なものだとは思いますが、残念ながらその大切なものがまったく表現されていないように私は感じました。