レビュー一覧に戻る
ジャージー・ボーイズ
2014年9月27日公開

ジャージー・ボーイズ

JERSEY BOYS

1342014年9月27日公開

sib********

5.0

優しさあふれるストリー、心地よい音楽

アメリカ東部、ニュー・ジャージー出身の音楽グループ、フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズをモデルにして大ヒットしたミュージカルが、クリント・イーストウッド監督によって映画化されました。日本公開前に、アメリカで観ることができました。 「ジャージー・ボーイズ」は2005年にブロードウェイにオープンして以来、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど、主に英語圏で上演されています。日本では未上演ではありますが、彼らの音楽はTVやCMなどで日常的に流れているので、その音楽を聞けば、誰もが「あ~、あの歌を歌った人たちか!」となるでしょう。 彼らがヒットを連発していた60年代から70年代にかけては、社会に鋭いメッセージを与えるような音楽がもてはやされる一方、彼らは「単なるヒットメーカー」というイメージがついてしまったこともあって、彼らのバックグラウンドについて関心を持つ人がいなかったと言われます。 でも、この映画を観れば、「そのことが、かえって幸いしたんだな」と感じるかもしれません。日本でも、かつては大人気を誇りながらも、内に様々な問題を抱えて分裂した伝説のグループがいくつもありますが…この映画のように、実在のグループを題材にしながら、これだけ「曝け出す」というのは衝撃的でもあります。 「ジャージー・ボーイズ」は、フォー・シーズンズなどの既成の音楽を使っていることから、「ジュークボックス・ミュージカル」(あるいは「カタログ・ミュージカル」)と呼ばれています。一足先に映画化された「マンマ・ミーア!」もそれに当てはまりますが、曲そのものを台詞のように使った「マンマ・ミーア!」と異なり、この映画では、登場人物が「必要性があって歌う」場面でしか歌いません。ですから、「ミュージカルは突然歌い出すから嫌」という人も抵抗なく見ることができます。 イーストウッド監督は、音楽とともに、ドラマの部分にも力点を置いた作品に仕上げました。舞台は、ニュー・ジャージー州の貧しいイタリア系の住民が集まる地区。そこで生まれ育った彼らは、満足な教育を受けることもできず、成功者となって豊かな人生を送ることなど「夢のまた夢」でした。しかし、彼らには好きな音楽がありました。そんな中、独特の高音で歌うフランキーは注目を集めていきます。 しかし、彼らがいるのは、独特のコミュニティー。それが、彼らの音楽活動に、プラスにもマイナスにもなります。「独特の部分」を象徴するキャラクターはクリストファー・ウォーケンが演じていて、期待通りの怪演を見せてくれています。 実際、クリストファー・ウォーケン以外は映画俳優としては無名の俳優を起用していまして、その多くは、実際に「ジャージー・ボーイズ」の舞台に立っていた人たち。フランキー役のジョン・ロイド・ヤングはこの役で演劇界の最高賞と言われるトニー賞の主演男優賞を獲得しています。このミュージカルが、単なる「ジュークボックス」ではなくて、ドラマとしても優れているこということを人々に納得させたのは、ジョン・ロイド・ヤングの演技力でした。映画でも、納得の歌唱力だけでなく、繊細な演技でも魅了します。 とにかく、この「ジャージー・ボーイズ」は、一応「ミュージカル映画」の範疇に入るとは思いますが、その台詞のひとつひとつ、登場人物の細かい表情のひとつひとつにも注目してください。イーストウッド監督が、こだわりを持って描こうとした世界が見えてきます。 彼らにとって、生まれ育った場所に留まるのにも、そこから抜け出すのにも、どちらにも大きな痛みが伴いました。こういう世界に生きる人間の苦しみというのは、日本人にも理解できなくはないと思います。そして、映画の中では、そんな彼らへのまなざしが限りなく優しい…。それが、抑制の利いた映像からよく伝わってきます。 また、フランキー・ヴァリ&ザ・フォーシーズンズの曲はメロディーがきれいで耳に心地よく、まさにポピュラー音楽のお手本のような曲がばかり。実際に、彼らの音楽は日本の歌謡曲にも多大な影響を与えており、私たちにも親しみを感じるサウンドです。こういう「当たり前に素晴らしい」曲の数々が、当たり前に生きようとした彼らの人生を彩っていきます。 もとの舞台は、グループ名「フォー・シーズンズ」にちなんで、四季のそれぞれの情緒を交えながらストリーが展開します。映画では、そのあたりが不足していたのが残念な気がしますが、一方では「光」と「闇」、「光に向かう勇気」と「闇に屈してしま弱さ」、その対比が巧みに描写されています。 さまざまな人たちが、それぞれに自分の人生と重ね合わせ、泣いたり、笑ったり、怒ったりしながらも、観終わった後は穏やかな気持ちになれる作品に仕上がっています。もちろん、音楽も最高! 多くの人に観てほしい映画です。

閲覧数5,653