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ベイブルース ~25歳と364日~
2014年10月31日公開

ベイブルース ~25歳と364日~

1202014年10月31日公開

pvx********

5.0

ネタバレ作品・監督から感じる 「気概」「愛情」

『ベイブルース 25歳と364日』(2014/日)は、芸人である 元「ベイブルース」、現「ケツカッチン」の高山トモヒロ氏が監督・原作を務める青春ドラマ、実録ドラマ。 「未来を有望された天才漫才師」「お笑い界の若き風雲児」と語り継がれる、今は亡き 河本栄得 という人物がかつて存在した。 この作品は、高山さんの目線で芸人 河本栄得 と 高山知浩 を中心に描いた物語。 高山さんの幼少期から始まり、大阪の名門 桜宮高校の野球部での2人の出会い、そして高校生活の模様が前半部で展開。 『死ぬまでにしたい10のこと』(2002/西・加)、『最高の人生の見つけ方』(2007/米)という事ではないが、「高校時代にすべき目標」いわゆる“TO DO LIST”を挙げて、野球での成功等ストレートな目標から、女にモテたい等芸人らしいものまで、目標を目指す2人の友情が築かれる様が丁寧に描かれる。 偏固なオヤジがマスターの“オリーブ”という名の喫茶店で、前記の目標を紙に書いて店内に貼りまくるのだが、コーラしか飲まない2人の高校生にこんな事を許すオヤジは、何か光るものを見抜いていたのだろうか…。 この辺も、微笑ましい。 後に出てくる“カレーライス”エピソードも、心に響く。 しかし、元阪神の矢野輝弘が高校の同級生に居た事により、野球で開花するという目標は儚き夢と散る。 そして、河本さんがNSC(吉本総合芸能学院)に高山さんを誘い、1988年漫才コンビを結成。 大阪NSC7期生である2人の同期には、雨上がり決死隊、トゥナイトらが居た。 後に、河本さんのオカンからの助言で、コンビ名を「ベーブ・ルース」から「ベイブルース」に改名(聞いていた由来とは違う??当然、映画なりの脚色は有るのだろう)。 芸人の登竜門 漫才新人コンクールの大賞を獲り、ベイブルースは波に乗りかける。 作中では、他の芸人の固有名詞は具体的には語られないが、この頃、同世代の若手芸人には、千原兄弟(NSC8期生)、なだぎ武が居たスミス夫人(NSC8期生)、当時 吉本興業が推し進め「吉本印天然素材」のメンバーとして人気を博していた雨上がり決死隊、ナインティナイン(NSC9期生)、FUJIWARA(NSC8期生)、バッファロー吾郎(NSC8期生)、チュパチャップス(星田英利、宮川大輔、NSC9期生)、へびいちご(NSC9期生)等、芸人群雄割拠の中、周囲はコントの流れになっていた。 そこで、コンビの舵取りを担っていた河本さんは、「時代はコントや」とコントを取り入れるが何か腑に落ちず、相方の高山さんに苛立ちをぶつける。 この辺りの表現も、「孤高の天才芸人」「笑いにストイックな男」と言うよりも、現状に苛立ち、もがき苦しむ、普通の20代の若者といった描写となっている。 監督が、「相方は亡くなった事で“天才”として作り上げられた所がある。泥臭くもがき、夢に向かって我武者羅な奴だった」といった表現をしていたのが頭をよぎる。 等身大の若者像として描く事により、夢を見失ったり、目標があっても今という時代の閉塞感に苦しみ悩んでいる若者に、エールを贈る応援歌といった見方も出来る為、ベイブルースを知らなくとも十分に堪能出来る出来栄え。 後半部は、作品としては“難病もの”の様相となるが、河本さんが1994年10月31日劇症肝炎で亡くなったという事実に基づいたものである為、痛々しく、胸が締め付けられ、目頭が熱くなる。 特筆すべきは、共に2005年の『パッチギ!』で本格デビューした、波岡一喜(高山役)と趙珉和(河本役)という2人の俳優の存在感、そして演技。 監督曰く、「当時のベイブルースの漫才を超えた」と称される程の、劇中の波岡さんと趙さんの漫才は非常に秀逸。 監督は、漫才シーンには妥協を許さず、とことん拘り、かなりの特訓を敢行したと聞く。 特に、『パッチギ!』『クローズZERO』『ドロップ』等、多くの不良・ヤンキー役で振り切れた演技を魅せる波岡さん。 その波岡さんは、高山さんへの扮し方が尋常ではなく、声・喋り方はそっくりであり、また単なるモノマネではなく所作・雰囲気・内から人の良さが滲み出る人柄まで、完璧に演じている。 劇中、高山さんは河本さんから「俺の精密機械になれ!」と言われるが、波岡さん自身が「精密機械」と化している。 ベイブルースは、河本さんの逝去により事実上活動停止であるのに、正式解散が2001年という事柄だけ見ても、高山さんの相方へ対する愛情が存分に伺える。 監督は芸人さんという事で、物語の焦点の不鮮明さ・蛇足部分等、映画監督としての力量の拙さは見受けられるが、それを十二分に補う程の情熱を感じる作品に仕上がっている。 監督がこの作品にかける高校球児ばりの一球入魂、相方愛、また俳優陣が監督の人柄に応える心意気など、愛情・気構え・心の機微・男気がビシビシと伝わってくる、“観る”のではなく“感じ取る”作品、それが映画『ベイブルース』だ! P.S.物語のラストやトゥナイトなるみ役の高山光永から、監督の家族愛も垣間見え、ただ悲しむのではなく、ほのかなハッピーエンディング感で前向きにさせてくれる所が心地いい。

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