5.0点
アフガニスタン、コンゴ ―― 世界的な女性報道写真家 レベッカ。アイルランドには、2人の娘(長女は心を閉ざしている)と、やさしい(しかし心が破れた)夫が待つ家。夫「待つ気持ちがわかるか? 娘たちはいつも母親の死に怯えながら暮らしてる。」母として妻として、人生をやり直そうとしたレベッカ。しかし、彼女は‘見捨てられた世界’から必要とされる。愛と信念のはざまで ――、使命ある仕事か、愛する家族か。彼女が選ぶのは ―― と、劇場版予告編の字幕をつなぐと、本作の内容が分かる。原題は『A Thousand Times Good Night』 これまたずっしり重い映画だ。「家庭人として生きるか職業人として生きるか」という女性の人生がテーマではあろうけど、ことはさほど単純ではない。男性であっても、十分考えさせられる内容である。 予告編で匂わされる「彼女が選ぶのは」この際どちらでもいい。「待つ気持ち」「怯えながらの暮らし」の夫や娘たちの心の動揺、それに連動して「愛と信念のはざまで」悶絶する妻の心の動揺。一直線に(迷うことなく)進むのもよくある話だが、実際にはこのように、気持ちは動き、揺れるものであろう。そこに人々の共感が集まる。 印象的なシーンがある。母・レベッカが心を閉ざした娘に必死の対話を試みる。でも、娘の心は開かず、母のカメラで母の表情を連写する。これには母も参ったであろう。‘見捨てられた世界’で、いつも撮る人だったのが、今自分が取られる人になったのだ。ポーズを取るわけにもいかず、制止することもできない。ここで、母親は何を感じたか。 茶化すつもりはないが、我らが寅さんのタイトル『男はつらいよ』じゃないけど、つらいのは男だけじゃなくて、女は女で『女はつらいよ』というところか。 弾ける女性があらゆるジャンルで活躍する時代、“自分らしさ”を見出し磨く姿をよく見かけるようになった。本作はそういう女性の教科書になるかも。ただし、ここには「磨き方」(それは鍛われ方と同義)は示されているが、これがお手本というものは示されていない。