フィクションと現実の曖昧な境界
- 一人旅 さん
- 2018年9月11日 21時52分
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ロマン・ポランスキー監督作。
とある劇場を舞台に、演出家の男と謎めいた女優の関係性の変貌を描いた異色のドラマ。
マゾヒズムの語源ともなったオーストリアの作家:マゾッホの小説「毛皮を着たヴィーナス」に着想を得て書かれた、アメリカの劇作家:デイヴィッド・アイヴスによる同名戯曲をロマン・ポランスキー監督が映像化した心理ドラマで、密室空間における男vs女の心理的駆け引きと欲望の交錯が底なし沼の如く映し出されています。
「毛皮を着たヴィーナス」の舞台化に臨む新進気鋭の演出家:トマと、舞台の主演女優を選考するためのオーディションに遅れてやって来た謎めいた女優:ワンダによる1対1のオーディション模様と両者の関係性の劇的変貌の顛末を、古びた劇場に物語の舞台を限定して描き出した密室型の心理&欲望表出ドラマになっています。
演出家=役者を決める上の立場、女優=演出家に選考される下の立場。舞台において演出家と女優は明確な上下関係にあります。本作の場合でも、主人公トマは粗野な無名女優:ワンダに対して演出家として上の目線から接し、やがて始まる二人だけのオーディションも当初はトマがワンダの演技を審査する形を取ります。しかし、オーディションのための芝居が延々と続いていく中で、トマとワンダの間で“芝居(フィクション)”と“現実”の境界が少しずつ崩壊していきます。そして訪れる両者の立場の完全なる逆転。上の立場だったトマはワンダの奴隷となる欲求を表出させ、ワンダは奴隷に成り下がったトマを心理的に支配しようとします。支配と服従の関係、倒錯した性的欲望の発露が現実の中に幻想が混濁した不可思議な密室映像の中に鮮烈に描写されていて、内に秘めた欲望に抗えず屈服せざるを得ない主人公の哀れな成れの果てに世の男性は弱味を握られた気分になります。
主演のマチュー・アマルリックがSとMの狭間で右往左往する演出家を大胆に演じていますが、謎めいた女優に扮したエマニュエル・セニエ(ポランスキー監督の妻)のファムファタール的演技もとびきり魅惑的であります。
音楽はアレクサンドル・デスプラ。
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