月に行く舟
作品レビュー(2件)
- cyborg_she_loves
5.0点
「ラブ・ストーリーの神様」とも呼ばれて一時は若い女性たちから偶像的に賛美されていた脚本家・北川悦吏子さん。 ドラマ「ロングバケーション」などは、放送時間になると東京の街からOLが消える、と言われ、「ロンバケ現象」なんていう言葉までできたほどの人気を集めたものでしたね。 そんな北川さんも、ご自身の闘病体験があってのことでしょう、2000年代に入ってからは、さまざまな障害をもつ女性を主人公に据えることが増えたように思います。 私は、初期の北川さんの「あすなろ白書」みたいな、少女マンガ的恋愛ドラマは、「やめてくれ」って感じで好きになれないですけど、最近の北川作品は心の奥深~いところにじんわりと染みとおってくるものを持っていて、どれもこれもみんな大好きです。 そんな北川悦吏子さんが2013~15年に、「月」をタイトルに含む3つのスペシャルドラマを連作しました。今では「月三部作」と呼ばれ、セットでDVDも発売されていて今でも見ることができます。 「月に行く舟」はその第2作です。 和久井映見さんが、盲目の女性役で出ています。 舞台は北川悦吏子さんの故郷、岐阜県の田舎町の、1両編成の電車が何時間に1本しか通らない、ひなびた駅。 その待合所に、ひとりの盲目の女性が、電車が来ても乗りもせず、じっと座り続けている。 そこに、その町に住む老小説家のところに原稿を取りにきた編集者(谷原章介さん)が通りかかり、彼女に声をかける。 そこから、ちょっとした心の交流が始まり、それがやがて…… というお話です。 ドラマティックな展開は、何もありません。 木の葉のざわめきや、小鳥のさえずりだけが聞こえる、静かな町で、自販機で缶コーヒーを買ったり、喫茶店でカレーを食べたり、といった光景ばかりが淡々と続いて行きます。 「大人のラブストーリー」がテーマということになっていますが、ドキドキ・ハラハラするような、感動でハンカチぐしょぐしょにするような恋愛劇を期待したら、裏切られます。 だけど、主人公の理生(和久井映見さん)の気持ちがわかる人にとっては、これはもうじわーっと染みとおる、美しい物語に感じられると思います。 とりわけ和久井映見さんの美しさは、見入ってしまいます。 もちろん、もともと美人の女性ですけど、こういう美しい物語の中に登場すると、なんだかそこだけ天使がおりてきたように美しく見える。 嫌味な見方をすれば、ちょっとこれは盲目という障害を美しく描きすぎている、現実の視覚障害者はもっと泥まみれの苦悩の中を歯を食いしばって必死で生きてるものなんだ、と言いたくなるのも事実かもしれません。 だけど、ドラマや映画は別に、いつも必ず現実を忠実に描写しなければならないわけではありません。 「おとぎ話」というジャンルのドラマがあったっていい。 これは「大人のためのおとぎ話」です。 いくつになってもこういう夢を見る心を失いたくない人のための、美しい夢物語です。 第1作の「月に祈るピエロ」に引き続き、相手役の谷原章介さんがドンピシャの適役なのは、やっぱりこの声の魅力のせいですね。主人公が盲目の人だから、彼女にとっては彼は声だけでつながっている相手なわけです。理生が彼に惹かれた理由は、この声を聞いていると納得する。 それから、本筋の物語に挿入される、老小説家夫婦(橋爪功さんと栗原小巻さん)のコミカルなやりとりが、これまた味わい深くていいですね。これ単独でひとつのラブストーリーになってる。 このドラマは、総計3つのラブストーリーが同時進行する物語です。 そのうち2つは、「おいおい、ちょっと待てよ、これってこのあと、どうなるんだよ」っていうところで終わっちゃうんですが、、、 ま、そこは想像力にお任せします、ってところでしょうか。見終わったあとにそういうことをあれこれ想像する静かな時間も、また楽しい。
- old********
4.0点
(*^^*)
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