薄氷の上を進む危うさ
- TとM さん
- 2020年2月1日 13時42分
- 閲覧数 1117
- 役立ち度 1
- 総合評価
中国発の、サスペンスと鮮やかな映像美が融合した快作。
多くの人が指摘する通り、ショットやカットのカッコよさや長回しによる重厚感とか、赤、緑、黄のペンキをぶっかけたようなライティングと雪のコントラストとか、中国の貧富の問題が少し入っていたりとか、見るべきところは確かに多いが、この作品の本当に面白いところはそこではない。
主人公のジャンは序盤にやりたいことを探していると言う。そんな中、五年前と似た事件が起こり事件の中心にいる女性に興味を持つ。
彼女に近付くと事件の糸口が少しずつ見えてくる。ジャンはそこから捜査を始めるが、すでに刑事ではない彼は本当は何がしたいのだろうか?捜査がしたいのか、女性と親しくなりたいのか、彼女のために真相を暴きたいのか、そのどれかがジャンのやりたいことなのだろうか?それとも、その先にあるやりたいことを見つけようとしているのだろうか。
人生に失敗し、ある種のどん底にいる男は、運と勘と忍耐で幸か不幸か事件の真相に迫るが、邦題にある薄氷の上を進むような、いつ落ちてもおかしくない危うさこそ見るべきポイントなのだ。
落ちる可能性だけではない。ジャンのやりたいことが定かではない以上、彼は途中で捜査を投げ出すかもしれない。真相にたどり着いても知らん顔をするかもしれない。極端に言えばジャンが殺人者に転落するかもしれない。そんな、場面場面でのジャンの選択と、結果のヒリヒリさがサスペンスフルで面白いんだよね。
ジャンが接触する渦中の女ウーもまた魅力的だ。掴んだら折れそうな細身に、薄幸そうな謎めいた美女。華北の雪に今にも埋もれそうな一輪の花。
役の割りに少々若く見えるのは難点だが、彼女もまたジャンと同じように薄氷の上を進む。
どん底の二人の人生は交われるのか、やりたいことは見つけられるのか、それとも・・・
ここからネタバレあり
ジャンは事件について通報はしたものの、決定的な証拠である彼女が殺した男の遺灰が木の根本に埋められていることは黙っていた。中国の検察がどんな感じがわからないが、場合によっては証拠不十分で不起訴になるかもしれない。
それと、ラストに出てくる花火を打ち上げる酔っぱらいはジャンなのかどうか、色々な部分を微妙にぼかして曖昧にしたのも良いよね。
もしかしたら二人はやりたいことを見つけて一緒になったかもしれない。その結論を受け入れるのは難しいけど、少なくとも可能性だけは残った。
詳細評価
イメージワード
- 未登録