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ソロモンの偽証 後篇・裁判 (2015)

監督
成島出
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2.93 / 評価:2557件

ミステリ端折ってテーマを深めた良作

  • gon******** さん
  • 2015年4月11日 21時04分
  • 役立ち度 88
    • 総合評価
    • ★★★★★

当方、今作品の前篇を映画で観た後に、
続きが待ちきれず原作の文庫本を第3~6巻まで読了。
その後映画の後編を観終え、今感想を書いているという次第です。

原作を読んだ身としては、文庫本6冊分の大長編を、どのように4~5時間の映画の枠に収めるのかが気になるところ。
当然原作の細かなディティールや心情表現のすべてを、その枠内に収めることは不可能なわけで、映画化にあたり原作のどの部分を端折って、どの部分を膨らませるのかが作品評価の指標の一つとなるわけです。レビューのタイトルと星の数は、その視点からの私なりの評価だと受け取ってもらえればと思います。

レビューの低評価が続く原因は、前篇の宣伝の仕方のまずさにあります。今作が本格ミステリ作品だと観客に勘違いさせてしまったことは、この作品にとっては非常に不幸なことだと思います。
元より原作自体もミステリ色が強い作品ではありません。ミステリーの薄皮をかぶったヒューマンドラマ。宮部みゆき流の「ウォーターボーイズ」なり「スウィングガールズ」と言えばいいのでしょうか。シンクロでもジャズでもなく裁判を通して少年少女たちが成長を遂げるひと夏の想い出を描いた青春小説なんです。

映画化にあたり、制作側はその辺の勘所をしっかりおさえていると感じます。
原作では「学校内で生徒たちが裁判を開く」という一見突拍子もない発案を、いかにも起こりえそうだなと読者に納得させられるだけの経緯とディティールが描かれていますし、裁判開廷前の情報収集の準備期間も5日間にわたる審議の様子も事細かに描かれ、小さな証言や事実を積み重ねながらじりじりと事件の真相に歩み寄っていく過程が丁寧に描写されています。
それらを映画では大胆に端折る代わりに、登場人物一人一人の心情や葛藤の部分にクローズアップをし、観客に感情移入をさせやすくするためのシーンを付け加えました。柏木君の自殺に端を発した一連の事件によって深い傷を負った関係者たちが「再び前を向いて一歩を踏み出せるように」と始めた裁判によって、実際に救われていく姿も映画では原作よりもはっきりと描写しています。

また原作のテーマについても、映画ではより観客にわかりやすく伝わるように設定が改変されています。
原作のテーマの一つに「身の回りにある不都合な現実に目を背けない勇気の尊さ」があります。いじめや校内暴力、自殺など。思春期の子どもたちの身の回りに身近に存在している「不都合な現実」や「悪」に対して、私自身も含め多くの人たちは目を背け無関係を装い、大人になるにつれ、目を背ける自分自身をもごまかし、心のどこかに嘘をつきながら生きていこうとしています。
そうした課題に弁護側の神原君や、検察側の藤野さんらは、いずれも柏木君との接点を通じて向き合い葛藤をする。そして元より素直に己の正義に正直に生きてきた松子ちゃんの存在感を原作よりも際立たせ、テーゼを松子ちゃんに、アンチテーゼを神原・藤野らに託し相対させるという構図化によって、今作のテーマをわかりやすく伝えています。
藤野さんが柏木君に「偽善者」と咎められるシーン(これによって藤野と柏木の接点をより強めた)や、追悼演奏会などのエピソードは、原作にはないものですが、テーマをより引きたたせる正しい判断だなと思います。

制作側はこのように、テーマをより深めるという方向に舵をとりながら、困難な映画化を見事成し遂げました。
しかしこの映画作品が不幸なのは、この映画を売り出す宣伝側が観客を呼び込もうと必死になるあまり、ミステリ色を強く前篇で押し出してしまったということです。ミステリを期待していた方たちにとって後編は肩透かし以外の何物でもありません。もう少しその煽りを抑えて、ヒューマンドラマを押し出す様な宣伝の仕方を前篇からしていれば、今作の評価はもう少しましなものになったのではないでしょうか。

最後にもう一つ、映画のほうで残念だったのは、法廷での樹里の偽証の落としどころについてです。
原作では裁判の終盤。神原君が柏木君との真実を話し、自分を裁いてほしいと訴えた後に、樹里がやおら立ち上がり「神原君の発言は全部嘘です!柏木君の事件を目撃したのは松子ではなく私です!」とさらに偽証を重ね、先の偽証で松子を隠れ蓑にしたことを深く悔いるというシーンがあります。
松子への謝罪とともに、神原の真意に樹里が感謝をし、神原の悲しみを今度は樹里が救おうとするという感動的な場面を「偽証」という形で表現する、「ソロモンの偽証」というタイトルにも結びつく今作屈指の名シーンなはずなのですが、映画ではそのシーンをばっさりと削除し、結審後に樹里が松子の両親に謝罪をするというありきたりなシーンになってしまいました。
あそこは原作のほうがよかったのにということで、マイナス1点。星4つとさせていただきますw

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