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バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) (2014)

BIRDMAN OR (THE UNEXPECTED VIRTUE OF IGNORANCE)

監督
アレハンドロ・G・イニャリトゥ
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3.35 / 評価:3,106件

風見「鶏男」、飛ぶ!

  • kfe***** さん
  • 2020年2月13日 13時44分
  • 閲覧数 1025
  • 役立ち度 2
    • 総合評価
    • ★★★★★

「バードマン」なるヒーロー物映画の主演で名を馳せ、大物俳優となった初老の男。しかし、それ以外にはこれといったヒット作・代表作も無く、頼みの綱のバードマンも度重なるシリーズ化の果てに尻切れトンボ状態。しかし、男は過去の遺物となるのを良しとせず、舞台に挑戦する。再び飛翔する為には、何もかもを犠牲にする覚悟で。これが本作の荒筋なのだが、その犠牲の捧げ方が正直に言って、実に痛々しい。しかも、その痛々しさを計算されつくしたカメラワークで、とても幻想的かつ美しく描きつくすのだから、見る者はその落差に居た堪れなくなる事この上ない。

上に「痛々しい」と書いたが、それはただ単に「辛そう」「しんどそう」という意味だけで用いているのではない。はっきり言ってしまえば、それは「主人公の痛い思考様式」を指すのであって、その「痛い思考様式」が具現化したものが、まさに「バードマン」なのである。

「バードマン」は(本質的には常に)主人公の背後に控えて、飛翔する=ハリウッドに返り咲く為の示唆を、事あるごとにささやいてくる。しかもその内容たるや、やれリアリティショウに出て私生活を売り払い売名しておけばよかっただの、やれ下品なスキャンダルで観衆の耳目を集めれば勝ちだのと、非常に「痛い」代物ばかりである。無論、それは彼の自己顕示欲が生み出した妄想に過ぎないものだが、それが現実世界に作用しているシーン(机の上の物が勝手に回る、ドアが勝手に開く等)もあり、結果、非常に幻想的な絵を作り出す事に成功している。

それどころか、全編ワンカットでとられたような本作の映像の中には、明らかに非現実的なシーンが多く混じっていて(色々な所でドラムを叩いている人)、場所の移動や、時間の経過が断絶している箇所も多い。つまり、最近話題になった『ジョーカー』ではないのだが、何処から現実で何処までが主人公の妄想なのかがはっきりしない作りになっているのである。中盤に「バードマン」が見せる幻想などは、その最たるものであろう。つまり、本作は主人公の見えている世界を、あえて客観的に描写した物となるのかもしれない。

しかし、「バードマン」がいかに活躍し、幻想を見せたところで、それはあくまで主人公にのみ聞こえるもの、見えるものである。一般の観客からすれば「注目を集めたくて奇行を繰り返し、舞台上で自殺を試みたお騒がせ俳優」が爆誕してしまっただけの話である。その「痛い発想」を評論家が褒めたのは、まさに「予期せぬ奇跡」だろう。

無論、主人公はこれらの奇行に「舞台俳優としての本気を見せるためだった」だの、「舞台に新鮮な血を輸血する為だった」だのと、もっともらしい理由をつけてはいるだろう。しかし、何をどう言い訳をしたところで、彼の最終目的はあくまでハリウッドへの返り咲き、すなわち自己顕示欲の充足である。そもそも、舞台俳優として良い舞台を作りたいと本心から思っていたのなら、「バードマン」など現れるはずがない。これは最早、自己顕示の病である。

しかし、その病に取り付かれているのは何も主人公一人ではない。目立つスキャンダルに飛びつき、一つでも多くの「イイネ」を貰おうと必死でネットで拡散する人々。舞台の内容やその凄さを語らずに「舞台上の自殺」というスキャンダルだけを追い続ける人々(舞台見ていたのは、ネットやってない様なおじいちゃんおばあちゃんばかりである)。彼らは基本的に、「皆が注目するから、私も注目する」という価値観しか持ち合わせておらず、その価値観を共有することで、お互いを認め合っている様なものである。

口で何のかんの言いつつも、分かりやすいスキャンダルを求める「痛い人々」。それに応じて、口で何のかんの言いつつスキャンダルを提供し続ける「痛い俳優」。それは風と風見鶏(あるいは鳥)の関係に極めて似ている。吹く風をよく察知してクルクルと回る風見鶏は、良い風見鶏として長く使われもしよう。それが出来ない風見鶏は、ただ消えるのみである。

終盤、主人公は病院の窓から文字通り「飛ぶ」。彼が風見鶏として死んだのか、あるいは、自由な鳥になってこの地上を離れたのかは、正直私には分からない。しかし、この地上にある限り「バードマン」からは逃れないと、主人公が確信していた事だけは分かる。つまり、彼の最後の「飛翔」はこの地上から自由になる為の、賭けだったのだろう。彼に対して観客たる私が出来るのは、その賭けの成功を、ただ祈る事だけである。

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