悪魔と悪魔のラブストーリー
- neko**** さん
- 2015年8月26日 16時17分
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- 役立ち度 6
- 総合評価
通常この手の映画では、普通の人間が業界に揉まれるうちにダークサイドに堕ちていく姿を描くが、今作ではそんなまどろっこしいことはやらない。
主人公は最初から悪人だ。
窃盗で生計を立てているし、平気で嘘をつくし、暴力も厭わない。葛藤がないので話が早い(笑)。
学歴がなくまともに職にもつけない主人公は、事故現場を撮影するクルーを見てこれぞ天職だと確信する。
その興奮を、無駄にセリフなど費やさず、ジェイク・ジレンホールの表情とサイレンの高鳴りだけで表現する。上手い。
主人公はサイコパスではあるが、同業者やテレビディレクターの言動を謙虚に聴き、創意工夫する。職業人としては極めて優秀だ。
どんな映像が売れるか理解した主人公の行動はエスカレートする。被害者宅への不法侵入、弾痕に家族写真を寄せる、事故現場で負傷者を動かす、などなど。
そして収録していないスタジオで背景の写真(ロサンゼルスの夜景)を眺めながら「テレビではリアルに見える」と呟き、カメラのフレームに収まる。真実を“演出する”側に回るという宣言だ。
以降彼の行動は悪魔の領域に突入する。
ライバルの車に細工して事故に遭わせ、負傷した姿を撮影までする。強盗殺人の現場でできたての死体を撮影し、犯人情報は通報しない。その犯人を追いかけ撮影しやすい場所を確保した上で通報し、銃撃戦を意図的に起こさせる。遂には自分に歯向かい出した相棒を罠にはめて射殺させる。
むしろ相棒殺しの展開は途中から期待すらしてしまった…(笑)。
この映画が面白いのは主人公が散々悪事を働いておきながらハッピーエンドで終わること!
障害となった相棒を無事排除し、望み通り事業を拡大させ、そして唯一価値観を共有できる女ディレクターの心も手に入れる。
悪魔と悪魔が結ばれるのだ。
しかしそれは不幸な事件事故を望む視聴者という悪魔がいる以上必然のようにも感じられる。
いやさこの映画を観てちょっとでも痛快に思ってしまった観客もそんな視聴者と同類なのではとないかと映画が終わったあと考えてしまった。
監督はそういう感情を観客に浮き上がらせようとこういう作劇のアプローチをとったのかもと。
しかし映画館を出て現実の街に戻った瞬間、“主人公みたいな奴心底そばにいて欲しくない”と思った自分は極めてノーマルな人間だろうと確信しましたとも!
とまあ報道の有り様と視聴者の共犯関係をいや~な描き方でえぐり出した素晴らしい映画でした!
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