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オマールの壁 (2013)

OMAR

監督
ハニ・アブ・アサド
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4.04 / 評価:210件

解説

第86回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、『パラダイス・ナウ』などの鬼才ハニ・アブ・アサドが監督を務めた社会派ドラマ。対立するイスラエル軍に捕らえられ、命と引き換えにスパイになることを迫られたパレスチナ人青年の運命が描かれる。主人公を演じるアダム・バクリを筆頭に、映画出演経験のほとんどないパレスチナ人の新進俳優たちが熱演を披露。人間の尊厳や愛をテーマにした重厚で深遠な物語に加えて、大規模ロケを敢行して撮られたパレスチナの風景が同国の置かれた状況を生々しく観る者に訴え掛けてくる。

シネマトゥデイ (外部リンク)

あらすじ

ひたむきに仕事をこなすパン職人でありながら、仲間たちと一緒に反イスラエルの闘士として活動するパレスチナ人青年オマール(アダム・バクリ)。彼は監視塔から撃ち込まれる銃弾を回避しつつ分離壁を乗り越え、恋人ナディア(リーム・リューバニ)のもとに通う日々を送っていた。そんな中、彼はイスラエル兵士を殺害したとして拘束されてしまう。イスラエル軍から壮絶な拷問を受けたオマールは、解放を条件にスパイになるように迫られる。幼なじみでもある仲間との絆を壊され、ナディアとの仲も引き裂かれたオマールは……。

シネマトゥデイ (外部リンク)

映画レポート

「オマールの壁」青春映画のタッチと重厚なトーンを融合させた簡潔な語り口で魅了する

 冒頭、眼前にそびえたつ分離壁をよじのぼって、飄々と乗り越えていく青年オマールの雄姿が印象的だ。幼なじみの親友タレクとその妹ナディア、アムジャドとの束の間の戯言、とりわけナディアへのはち切れんばかりの恋情が彼の身体のはずむような躍動感を支えている。しかし、牧歌的なまでの恋と友情の神話時代は、あっという間に崩壊する。イスラエル兵殺害の容疑で投獄され、拷問を受けたオマールは、イスラエルの秘密警察の奸計によって仲間を売ってスパイになるか、常軌を逸した終身刑に処されるかの決定的な選択を迫られるからだ。

 ベルリンの壁ならぬ分離壁とは、ヨルダン川西岸地区、パレスチナ市街を縦横に分断するように建てられ、自治区内のパレスチナ人たちは永続的な孤立と占領の幽閉状態に置かれている。それは屈辱的な隷属を強いられた無辜の民の心理的なメタファーでもあるだろう。

 生殺与奪の権を握る狡猾な捜査官ラミによって、オマールは手持ちの駒のように獄舎と町場を何度も往還する。やがて周囲から裏切り者の烙印を押され、タレク、アムジャドとの友情、ナディアとの恋愛関係にも疑心がめばえ、意気阻喪の果てに、取り返しのつかない悲劇が起こる。

 監督のハニ・アブ・アサドは、深刻な政治的モチーフを取り上げながらも、初々しい青春映画のタッチと冷戦下の酷薄なスパイ映画を思わせる重厚なトーンを融合させた簡潔な語り口で魅了する。オマールが大勢のイスラエル兵に追走され、迷路のような街中を全力疾走するシーンなど極上のアクション映画に匹敵するほどだ。

 二年後、ナディアに再会すべく分離壁と対峙したオマールが、もはや心身ともに疲弊しきって自力では登れないエピローグは、その直後に彼が向き合う<真実>とあいまって極めて苦い後味を残す。(高崎俊夫)

映画.com(外部リンク)

2016年4月14日 更新

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