ここから本文です

新宿スワン (2014)

監督
園子温
  • みたいムービー 271
  • みたログ 2,752

3.08 / 評価:2,988件

綾野剛と山田孝之の「骨太なBL」に釘付け

  • regulus6648 さん
  • 2015年6月1日 1時48分
  • 閲覧数 8123
  • 役立ち度 57
    • 総合評価
    • ★★★★★

原作は読んだことがなく、公開前にインタビューとかを読んでもストーリーの筋がいまいち見えてこないまま劇場へ。

歌舞伎町というブラックな世界が舞台だけれど、役者の体当たりの熱量が作品を牽引。単なるバイオレンス・アクションの枠を越えて、散りばめられたストーリーに心が騒ぎ続けた。

配役が具体化する前に、原作者の和久井健が偶然居あわせた席で思わず「ここに龍彦がいるじゃないですか」と言ったという綾野剛の配役は的中。天真爛漫さも、世間知らずが故の図太い正義感も、豊かすぎる表情筋の使い方に感心しちゃう顔芸を駆使した女の子のスカウトシーンも、漂うお子様感と成功しようと必死で背伸びしている感のバランスが絶妙で、気づくと龍彦を応援していた。だから、物語の設定上、共感できる登場人物がいなそうなストーリーの中で、龍彦を通してダークな世界にムリなくついていけた。

飄々とスタイリッシュな真虎(伊勢谷友介)とか、悪っぽさ全開の関(深水元基)、企みが見えない葉山(金子ノブアキ)が、闇の世界から目をそらさせない。その一方で龍彦は、血まみれになっても挑み続ける噛みつきそうな目とか、知ってしまったダークな現実に傷ついた時とか、ぜんぜん格好いいわけじゃないのに、そういう瞬間瞬間の表情に魅せられた。アゲハ(沢尻エリカ)は、いろんなことを飲み込んで龍彦が救いたくなるのも納得の可憐さだった。

そして何よりもこの作品を支えているのが、龍彦と南秀吉(山田孝之)の屋上のけんかのシーン。秀吉がナイフを向けることで生まれる距離感と、あくまで素手で勝負しようとする龍彦。相手に対して、お互いいろんな爆発する感情を抱えて殴り合い、血まみれになり、それでも殴り合い、血で赤く染まった2人の顔が仰向けに並んだ時、そこまで激しくぶつかり合うに至った経緯もプライドも憎しみも全てが流れ落ちて漂う、旧知の友人の間だけに生まれるほっとするような空気感。この瞬間をしっかりと、二人の佇まいで落とし込めることに驚愕。この一瞬のために「新宿スワン」が映画化されたと言っても過言ではないような。見事としか言いようがない。ここでようやく、歌舞伎町で初めて秀吉が龍彦を見かけた時の表情が、羨望を越えた憧れに満ちていたことに気づいた。この二人の関係を、脚本の鈴木おさむは「骨太なBL」と呼ぶのだろう。

じめっと新宿ノスタルジーを感じさせるような挿入歌とシーンは、作品のファンの幅を広げそう。途中ちょっと間延びしたかなぁとも思いつつ、終わってみると、それだけの時間をかけているから、悪っぽい怖そうなイメージしかない歌舞伎町に自然と踏み込んで行けたのだと思った。気づいたら、いつの間にか「人が生きる場所」としての歌舞伎町にいたから。ストーリーが終盤に向かい、龍彦が歩く歌舞伎町を、さまざまな登場人物がそれぞれ通り過ぎていく演出がいい。アニメのエンディングのようでもあり、新宿・歌舞伎町という世界の濃密さを体現していた。

龍彦と秀吉をめぐる青春群像劇なんて書いたら、過激なアクションシーンを完遂した役者陣に失礼な気がするが、これはヤクザな暴力映画ではない。気軽に楽しめて、後味はスカッと爽快。怖いもの見たさで歌舞伎町のリアルをのぞきに行くのもいい。エンタメの構成要素がたくさんで、誰が観ても心に引っかかる部分がありそうだから、もしかしたら大ヒット作に化けるかも。

悪いってわかっていながらも、たまに体によくないものを入れる、その快感を味わう気分で観ると、とっても楽しめると思う。ウイスキーをロックで飲むとか、煙草の煙を吸い込むみたいな。

観た後、疾走感に熱くなった勢いが消えずに、しばらく新宿を歩きまわってから帰った。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 未登録
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ