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あん
2015年5月30日公開

あん

1132015年5月30日公開

yan********

5.0

狭い世界に生きることを余儀なくされた人々

事前情報全くなく見たために、途中で、ライ病、ハンセン病という言葉が出た時に思わず固まってしまいました。2019年夏に政府がハンセン病家族訴訟の控訴を断念したというニュースがありました。でも全くの他人事、選挙目当て、そんな風にとにかく自分には縁遠い存在だったこの名詞。まさかそれを画面の前とは言え対峙することになろうとは思いませんでした。 投げやりなどら焼き作りで日々を送る千太郎、そんな彼の前で あん を作って見せる徳江。『色々ややこしいですね』と困惑する千太郎に対して、『おもてなしだから。おもてなし。豆の。せっかく来てくれたんだから、畑から』と語る徳江。本物を作る、作ろうとする人は、そこで対峙するもの、材料にも礼儀をもって接しなければならない、そのもの自体を知ろうとしなければ心は通じ合わないということを知っている。そのものの命をいただくことには、例えそれが小豆であっても同じこと。他人事ではその素材を生かすことはできない。そして、出来上がった あん に魅せられていく千太郎。 しかし、そんな日々の暗転は突然訪れます。どら焼き屋の店先から人の姿が消えていく、引いていく。でも引いてしまった人々を責める気にはなりませんでした。果たして自分が同じように噂を聞いた時にどう行動するだろうかということに自信が持てなかったためです。何が正義なのか、何が正しいのか。もの凄くやり場のない怒りに見ていてとても苦しくなりました。 日本でハンセン病患者の方の隔離は1996年まで続いていたという衝撃の事実。ほんの少し前まで、自分が生きてきた時代のこの国でそれが当たり前のこととして行われてきた実は身近な事実であるということ。何も知らなかったというのは簡単ですが、もしかすると無意識のうちに耳に入ることをスルーしてきたのかもしれません。 『私たちはこの世を見るために、聞くために生まれてきた。だとすれば、何かになれなくても、私たちは、私たちには生きる意味があるのよ。』と語る徳江。生きる意味、何か犯罪を起こしたわけでもないのに、長年にわたって狭い世界に生きることを余儀なくされた人たち。 生きる意味、生きる価値、このことに限らず何かと無意識に色々なものを、『難しいもの』を遠ざけてしまう自分の不甲斐なさを感じました。正面から何か突きつけられるものを感じました。レビューだからと言ってそう簡単に言葉でまとめることはとてもできない、強く心に残る、残すべき作品だと思いました。

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