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ハーモニー (2015)

監督
なかむらたかし
マイケル・アリアス
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3.41 / 評価:622件

社会の同調圧力への風刺と捉えられる

  • ridermask_stronger さん
  • 2018年9月15日 14時03分
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

意識の消失がテーマになっているが、人間が意識なく活動する現象は、夢遊病など実際に発生する。その際、人間は習慣的な行動はできるようだが、高度な知的活動は困難であることが、だいたいわかっている。「人間が意識を消失させて葛藤なく、より幸福な状態になる」というような設定は、脳科学の事実を無視している。

作者は、「意識」というより、「意志」の消失、社会システムへの盲目的順応の是非をテーマにしていると見たほうが妥当であろう(作中でも、ほぼ同義で使っている)。そう考えると、本作のストーリーはもっと卑近な形で、次のように書き換えることもできるだろう。

ミアハはとんでもないブラック企業でひどい目に合わされた後、転職してホワイト企業に入った。そのホワイト企業は給料も福利厚生も素晴らしいが、会社のやり方にただ従うことを求められ、自由な考えを認めない会社だった。
これに反発心を抱いたやさぐれ新入社員ミアハは、似たように社畜になり切っていない新入社員等をそそのかして集団離職をしようと画策するが失敗する。
会社は新入社員の離職を防ごうとして、一番反抗的なミアハを実験台に反抗を抑え込む心理カウンセリングを研究していたが、その過程で自由意志を完全に奪い去る洗脳技術を発見してしまう。
会社はさすがに洗脳はまずいだろうと使用を自粛。
しかし、実験中に一時洗脳を受けた状態になり、悩みや葛藤がない状態を味わったミアハは意外にもそれを幸福と感じ、全員洗脳されて社畜になったほうが皆幸せになると考える(もともと社畜化に抵抗していたのに不思議だが)。
そして、社員にストライキを扇動する。ストライキを抑え込むために、会社はやむをえず洗脳技術を使って、めでたく全社員が自由意志のない社畜となり、なんの葛藤も感じずに楽しく仕事をするようになった。

本質的には、そんな話であり、トアンとミアハの関係性などは、話の構造的にはおまけでしかない。また、普通に考えれば、ミアハの憎しみはホワイト企業への反発の前に、ブラック企業を攻撃する方向に向かうのが当然と考えられるが、なぜかそうならず、彼女たちの動機に共感することが難しい。

この話の構造にはSF的には弱点があって、その一つは、組織内で完全に調和され、自由な考えが全く許されなくなった組織は、他の組織と対抗して生き残れるのか、という点だ。
会社であれば、イノベーションを起こせなくなった同質的組織は、環境の変化に追従できず、他のイノベーティブな組織に駆逐される(と、経営論ではよく語られる)。
SF的に空想するなら、宇宙人が侵略してきたら、自由意志を失った人類はあっさりと負けてしまうのではないか。
物語中にも、ミアハをさらったブラック企業に対して、ミアハの両親などが取り戻そうと動いたり、報復を試みたという描写はない。敵との戦力差を分析して勝ち目なしと判断し、なんの葛藤もなく、子供を略奪されても諦めたのだろうか。
組織内での完全な調和が、外敵に対しては全く貧弱である可能性もあるのだ。

おそらく、作者はSF作家というより、社会学者的なセンスを多分にもっており、日本社会の同調圧力、同質的組織への疑念を抱いていたのであろう。その疑念を作品を通して表現したのではないか。
そういう意味では、優れたSFというより、社会思想の優れた芸術的表現であったと見るのが妥当だろう。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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  • 知的
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