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アクトレス ~女たちの舞台~
2015年10月24日公開

アクトレス ~女たちの舞台~

SILS MARIA/CLOUDS OF SILS MARIA

PG121242015年10月24日公開

koukotsunohito

3.0

「マローヤのヘビ」をさがして

まず、クロエちゃん目当てで観にいくと、なかなか出てきませんのでご注意を。彼女の出演時間そのものもけっして長くはないです。でも劇中でも名前の出てくるリンジー・ローハンばりのハリウッドのゴシップガールを好演してました。 ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツという世代もキャリアの成り立ちも異なる3人の女優たちが、どこか彼女たちのパブリックイメージも持ち寄りつつ、ベテラン女優とそのマネージャー、新進の若手女優をそれぞれ演じている。 この映画はもともと主演のジュリエット・ビノシュの提案で監督がシナリオを書いたんだそうで、だからまず彼女ありきな企画なわけで、実際に母国フランスはもとよりハリウッドでも活躍中のこのベテラン女優のけっして力こぶの入っていないナチュラルな演技を堪能できる。 化粧してドレスアップすれば美しいが、ヘアピースを取ってスッピンに近い顔になると歳相応のシワもあって、見た目は普通のおばちゃん。 マネージャー相手にセリフの練習するところなんかも、「あぁ、ご本人もこんな感じなのかな」などと思ったり。 湖で泳ぐシーンがあるんだけど、マネージャー役のクリステン・スチュワートを差し置いて全裸になってて、「そこはあんたじゃねぇだろっ!」とツッコみそうになった。 あの裸も、これが「ある一人の女性」を描いた映画だと考えれば意味を見出せますが。 “女優”が主人公だが、この映画で描かれるのは彼女が華やかなスポットライトを浴びているときではない。スイスの山の中に滞在する“アーティスト”が、自身の本領を発揮するために自らの人生と役柄とを擦り合わせ産みの苦しみを味わいながら芝居の本番を迎えるまでの日々が、美しい風景をバックに描かれる。 山の谷間を雲がまるで巨大な蛇のように這う「マローヤのヘビ」の映像が果たして本物なのかVFXによるものなのかはわからないが、パッヘルベルのカノンが流れる中、雲がゆっくりと移動していくあの映像は、その直前に姿を消したまま二度と現れないヴァレンティンの存在や、あるいは自殺した劇作家ヴィルヘルムの妻がマリアに見せたアーノルド・ファンクのモノクロの山岳映画のように、どこか幻めいて見える。 マリアとヴァレンティンが繰り返す戯曲のセリフのやりとりは、時々それがセリフなのかそれとも彼女たちの素の会話なのかわからなくなることがある。 かつてマリアはヴィルヘルムの戯曲「マローヤのヘビ」で20歳のジグリッドを演じたが、時を経た今回はジグリットに自殺に追い込まれる40歳のヘレナを演じることになる。新しくジグリットを演じることになったジョアンにあっさりと自分の提案を拒否され、マリアは自分の中にあった20歳のジグリッドが消えていくのを感じる。 彼女は何を思っただろう。 クリステン・スチュワートが演じるマネージャーのヴァレンティンは、どこか役柄と本人が重なるところもあるビノシュやクロエと違ってスチュワート本人とはまったく異なる役柄だけど、クロエ演じるジョアンがパパラッチに追われたりスキャンダルで話題になったりというのはスチュワート自身がプライベートで経験していることなので、彼女は劇中でそんな自分に近い若手女優の姿を外側から眺めるのだ。ヴァレンティンはジョアンのことを「ハリウッドでは珍しく滅菌されてない女優」と評価するが、それはクリステン・スチュワート自身のことではないか。 等身大の中年女優役のビノシュの演技と存在感はさすが説得力があるし、クロエちゃんもベテラン女優に「敬愛している」などと言っておきながら演技に注文つけられると笑顔で拒否ったりバカっぽいSF映画のコスチュームがキュートだったりしたけど、この映画の最大の収穫はやはりクリステン・スチュワートの演技だろう。 「主役」のマリアに常に寄り添い彼女をサポートするヴァレンティンを演じるスチュワートは、彼女こそが実はハリウッドでもっとも稼いでいる人気若手女優であることを忘れさせてくれるほどに実在感があった。 だからこそ、そのヴァレンティンがマリアの前から姿を消したことは観る者に少なからぬショックを与える。 それは芝居の中でヘレナのもとから去っていったジグリッドのようでもあり、つまりとても大切なものの喪失ということを表してもいる。 前に進むには、強い思い入れを捨てなければならないときもある。それが自分にとってどんなに大切なものでも。 自分を見出してくれた恩師が死に、二人三脚でやってきたマネージャーは自分のもとから去り、若さもまた月日の流れの中で消えていく。 「女優」の目を通して描かれる人の別れや時の移ろい。 それでも人は生きていく。 ここからマリアの新しい「マローヤのヘビ」が誕生するのだ。

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