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おかしなおかしなおかしな世界

おかしなおかしなおかしな世界

IT'S A MAD MAD MAD MAD WORLD

155

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5.0

カネを求める人間の本能的欲望、自己中心性、アクションが巧みに融合し結晶した傑作

監督・製作:スタンリー・クレイマー、脚本:ウィリアム・ローズ、タニア・ローズ、撮影:アーネスト・ラズロ、編集:ジーン・フォウラー・Jr、ロバート・C・ジョーンズ、フレデリック・ナドソン、音楽:アーネスト・ゴールド、タイトルデザイン:ソール・バス、主演:スペンサー・トレイシー、1963年、161分、配給:ユナイテッド・アーティスツ、原題:It's a Mad, Mad, Mad, Mad World 『手錠のまゝの脱獄』(1958年)、『渚にて』(1959年)その他で著名な大作で知られるスタンリー・クレイマー監督によるコメディ映画。元々210分の映画だったようだが、197分バージョンなど何種類かの短縮バージョンがあり、日本では161分バージョンが一般的だ。 山間の道路を猛スピードで走る一台の車。次々に車を追い越したあげく、谷底に落下する。偶然通りかかった車の運転手ら5人が現場に降りると、ドライバーの男は岩場で息絶え絶えになっていた。しかし死ぬ前に気になる言葉を言い残した。それは、35万ドルの大金がトランクに入れたまま、ロジータビーチ州立公園の中の大きなW(big W)の下に15年も眠っている、それはおまえさんたちにくれてやる、というものだった。男を追って来たパトロール隊は、男が最期に何か言わなかったか5人に尋ねるが、5人とも35万ドルの話はしなかった。 5人は半信半疑であったが、それぞれの用事をほっぽらかして、そのカネの在り処である遥か南へと向かう。5人のうちには、妻や姑同伴の者もおり、皆で見つけた場合の分け前のことで口論寸前になる。となれば、在り処のわからないカネを先に見つけた者が自分のものにする、ということになり、誰よりもそこに先に着こうと、そこからはそれぞれ欲の絡んだ争奪戦となる。 一方、地元の警察は、退職直前の警部カルペッパー(スペンサー・トレイシー)の下、彼らの行方を監視していた。・・・・・・ 画面が横に長いのは、当時としては初となる「スーパーシネラマ」方式のスクリーンを前提としていたからであるとされる。ほとんどが屋外ロケであり、走行する車を中心に、複葉機や軽飛行機、背の高いビルやはしご車まで登場することもあり、スクリーン上では迫力があっただろう。 いかにも税金などまともに納めそうもない男が納税に気を遣うなど、台詞で笑わせるところもあるが、それを全体の半分以下に抑え、あとはカーチェイスなどカーアクションをふんだんに取り入れており、それもヴァリエーションが豊富だ。複葉機や軽飛行機のシーンでも大いに見せ場をつくってくれている。ドタバタ喜劇の基本となる、モノの破壊や爆発も充分に行われ、ファーストシーンからサーカスのようなラストシーンにいたるまで目が離せない。途中、intermission を挟みながらも、ぐいぐいと引っ張っていく牽引力はさすがと言うしかない。 ただで大金が手に入るなら、多少遠いところへでも、途中何があっても、そこへと向かう。この人間に共通する本能的欲望と、そのためにはひとのことなどかまってられないという心理、カーアクションなどが、巧みに融合して結晶したような作品だ。 アメリカ映画の大まかな特徴は、カーチェイス・殴り合いなどのアクション・セックスの三つのシーンがひと作品の中に必ず入っている点だが、この最後のものを入れなかったのも成功した一因であろう。 喜劇役者からベテラン俳優まで大勢の人間が登場し、いろいろなところで合流し、Wの下にはタクシーの運転手たちまでもが一堂に会するが、各キャラクターをきちんと描き分け、カルペッパーの身の上話も、隠し味のようによく効いている。 俳優にとって、コメディはシリアスより演じるのが難しい、という。監督としてもそれは同じであろう。しかも、舞台でのコメディではない、映画なのである。コメディ映画を成功させるためには、バランスのとれたストーリー展開と俳優陣の演技力が必要で、その核心は発声の滑舌と抑揚にある。 シリアスな映画製作の狭間に、スタンリー・クレイマーはこんな大作コメディを作っていたのだ。 タイトルデザインは、ソール・バスによる。ヒッチコックの『めまい』(1958年)、『北北西に進路を取れ』(1959年)、『サイコ』(1960年)などで知られるが、本作品ではアニメーションに近い動画を見せてくれている。 今回も、この映画を紹介してくれた映画好き高校生に感謝しよう。

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