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美術館を手玉にとった男 (2014)

ART AND CRAFT

監督
サム・カルマン
ジェニファー・グラウスマン
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3.29 / 評価:41件

アウトサイダーになりきれないアウトサイダー・アーティスト

  • yuki さん
  • 2016年11月6日 18時53分
  • 閲覧数 422
  • 役立ち度 4
    • 総合評価
    • ★★★★★

近年「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」「ヴィヴィアンマイヤーを探して」といった良作アウトサイダー・アートドキュメンタリーが連発したが、またしても変人アーティストがやってきた。希代の贋作画家マーク・ランディスである。

ランディスは天才的な贋作作家である。が、変なのはその制作した贋作を美術館にタダで寄贈してしまう性癖である。一般的に贋作を売りつけてしまうと当然詐欺罪に問われるが、ランディスはそれを無償で譲り渡してしまうために、警察は彼を逮捕することが出来ない。つまり、完全自己完結のイタズラである。
本作はそのヘンタイの真性に迫るドキュメンタリーだ。

ただ、正直なところ退屈な映画で貼る。展開は変人ランディスの半生と生活を浅く追い、クライマックスは彼の個展を撮影しただけで、緊張感に乏しい。撮影中にイベントが起こることもなければ、何か本質に迫ろうという気概も感じられない。素材に頼り過ぎな上に、さらにドキュメントの構成がヘタなため、本来持っていたであろうオモシロさが引き出せてないもどかしさを覚えた。

例えば前述したヴィヴィアンマイヤーの作は、対象が故人ながらも、それが社会的な評価を得ていく経緯を爽快感とともに描きつつ、周囲の聞き込みから本人の心理に近づこうとしたり、構成の妙で観客を飽きさせない作りになっていた(監督が素人というのが信じられない。よく出来たドッキリか!?)

或いは「イグジット~」。あれはまさに神が微笑んだとしか思えない、何かの奇跡が起こったとしか思えないドキュメントだった(僕はヤラセだと思ってるのだけど)。タイトルは「土産物屋なんて素通りしてさっさと美術館から出ちまえ」の意味。つまり、監督のバンクシーは、「この世にある高価なアートなんて本当は一銭の勝ちもないんだよ」と訴えているのである。彼はアートの無意味さを、事実の出来事を映像に収めることで、その真実を観客の眼前に提示したのである。世界の認識が一瞬で入れ替わる、まるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃だった。

「美術館を~」も、しっかりとランディスを見つめていれば、もっと多彩なアプローチの可能性があったはずだ。ヴィヴィアンマイヤーの作のように、対象のオモシロさを表しきれていないし、特に惜しいと思ったのが、「イグジット~」的アプローチに欠けていたこと。
つまり、美術館の職員たちは、それが贋作と知るまでは彼の寄贈を喜んでいたという事実である。見かけで判断できないほど本物にそっくりで、そしてそれが偽物だと誰も知らないのなら。それは本物と呼んでいいのじゃないだろうか。そして本物の価値とは何だろうか。そんなことを考えた

ただ、やっぱりマーク・ランディスは面白いヘンタイだと思う。手法と目的がヘンテコってのもあるけど、彼はアウトサイダー・アーティストにしては、妙に俗っぽいのだ。例えば、ヘンリー・ダーガーやヴィヴィアンマイヤーは、自身の作を生前のうちはぜったいに人に見せなかった。バンクシーは自身の本名、立場を明らかにしない。そう、この手の芸術家は名声を求めてはいけないのである。
その点、ランディスには時折名誉欲か、あるいは承認欲求か、なにか社会に対する欲求のようなモノが垣間見えるのである。そもそも、ひとりで贋作作りを楽しみたいのなら、新聞記事の取材は受けなかっただろうし、今度のドキュメントや個展も固辞したはずである。それらの取材を断らなかったということは、そういう欲求があったということだろう。ランディスは贋作作りを「心が落ち着くから」と弁明してるが、そもそも、美術館に寄贈するという目的自体が、社会への接触を望んでいるフシがある。自分の個展に集まった観客に、ランディスは実に楽しそうに話しかけていた。彼が求めていたのはソレだったのではないだろうか(何となく女性にばかり話しかけていたのは気のせい?)

その場合に問題になるのが、自己の欲求のために社会へ迷惑をかけてもよいのか、ということである。インタビューを聞くとランディスは理知的であることが分かる。そして、自分の行動が自分本位に依ることに、心のどこかでで気づき、そして葛藤してるようにみえた。
つまり、アウトサイダーになりきれないアウトサイダー・アーティスト。習俗と芸術の狭間に揺れ動く彼に、とても人間臭いものを感じて、ますます好きになってしまった。
@YUKI

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