ここから本文です

モヒカン故郷に帰る (2015)

監督
沖田修一
  • みたいムービー 156
  • みたログ 945

3.47 / 評価:672件

解説

『横道世之介』などの沖田修一が監督と脚本を担当し、数年ぶりに故郷に戻った売れないバンドマンが余命わずかの父親のために奮闘する姿を描くコメディードラマ。恋人の妊娠を報告するために瀬戸内海に浮かぶ故郷の島に帰るバンドマンを『舟を編む』などの松田龍平が、昔かたぎの頑固な父親を『悪人』などの柄本明が演じる。共演は、前田敦子、もたいまさこ、千葉雄大ら。松田のモヒカンヘアでのパフォーマンスや、松田と柄本の広島弁を駆使したひょうひょうとした掛け合いが見どころ。

シネマトゥデイ (外部リンク)

あらすじ

プロのバンドマンになるべく東京で活動していた永吉(松田龍平)は、付き合っている由佳が身ごもったことを報告するために数年ぶりに広島の島へ戻ってくる。頑固な父親・治(柄本明)は息子の永吉につっけんどんな口調で接するが、内心はうれしくてその夜、島民たちを誘って大宴会を開催。しかし、宴会の最中に治が倒れ、がんであることが発覚し、余命宣告を受ける。永吉は父親の喜ぶ顔が見たいと奮起するも、なかなかうまくいかず……。

シネマトゥデイ (外部リンク)

映画レポート

(C)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会
(C)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

「モヒカン故郷に帰る」破天荒なキャラと笑いに導かれ辿り着いた、宝石のような家族の肖像

 人生は喜劇だ。どんな些細な瞬間にだってほのかな笑いがあり、やがてその集積は抱きしめたいほどの愛おしさへ変わっていく。そして多くの名作がそうであるように、沖田修一監督の奏でる喜劇はいつも、観客を笑わせ、と同時に、知らないうちになぜか涙を止まらなくさせる。

 その持ち味は今回も存分に受け継がれた。木下惠介監督の名作「カルメン故郷に帰る」(51)を彷彿させるタイトルだが、リメイクなどではない。主人公がストリッパーだった木下作品に比べ、本作ではデスメタル・バンドのボーカル(松田龍平)が主役。ステージ上で重低音のうなり声を響かせる彼は、恋人の妊娠を機に7年ぶりの帰郷を決意する。もちろん、トレードマークのモヒカン姿そのままで--。

 いや、正直言うとモヒカンやデスメタルを歌う松田の姿はまだ序の口だった。むしろ驚くべきは故郷の面々。瀬戸内海に浮かぶ島で待ち構える父(柄本明)はあまりに熱烈な矢沢永吉ファンだし、母(もたいまさこ)は常に観音様のような細目で家族を愛で包み込む。この父母の絶妙な掛け合いに松田の朴訥なリズムが加わると、日常感に根ざした彼らの空気は地元エキストラとの境界線すら見事に霧消させ、そこにリアリティの極地ながらも、言うなれば天国のような可笑しみに満ちたワールドが生まれる。

 だが、ここからが沖田監督の真骨頂だ。彼は喜劇が喜劇であるための塩加減を忘れない。やがて判明する父の病気。死と向き合わざるをえなくなる家族。それでも決して叙情的な音楽は流れないし、物語も決して予定調和には陥らない。むしろ悲しみが重くのしかかりそうな場面ほど破天荒な笑いが降って湧き、映画はより自由に、柔らかく、その羽根を広げていく。

 とくに白眉なのは、盆と正月がいっぺんに訪れたかのようなクライマックスだろう。まさに人生の縮図を思わせる神がかり的な瞬間の連続で、柄本の仰天演技に思わず卒倒しそうになる。観客は笑って泣いて、もう大忙し。上映中すっかりグシャグシャとなった顔は誰にも見せられまいが、かくも形容しようのない我々の表情こそ、本作の唯一無二の魅力を物語る証と言えそうだ。人生万歳。大切な人々よ、ありがとう。そんな想いが次から次へと溢れて止まらない。終映後もずっと心の奥を暖かく照らし続ける名作が、またもこの監督の手のひらから誕生した。(牛津厚信)

映画.com(外部リンク)

2016年4月7日 更新

本文はここま>
でです このページの先頭へ