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ブルーに生まれついて (2015)

BORN TO BE BLUE

監督
ロバート・バドロー
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3.65 / 評価:438件

チェットだけの音

  • bar***** さん
  • 2020年7月5日 21時39分
  • 閲覧数 394
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

ブルーに生まれついて。良作です。

チェット・ベイカーが人気絶頂期にあったころ、彼はヘロイン中毒となり、投獄されたり、ヤクの売人に殴り倒され、大切な商売道具の歯を失ってしまったりして、演奏活動を休止しなくてはならなくなります。物語はそこからスタートします。

この映画はチェット・ベイカーの半生を追う映画です。でも、結局のところ、彼の心の奥底にあったものまでは、すくい出せなかったのかもしれません。たぶんそんなことはどの作品にもできないと思います。

アーティストというのは、本来謎めいたものです。チェットのような奏者ともなればなおさらです。彼にしか出せない「音」は、彼だけが秘密を掴んでいる。だからこそ魅了されるものだと思います。

イーサン・ホークの名演は見物です。頼りなくて、傷ついていて、憂鬱なチェットをよく演じていたと思いますし、演奏も彼とそっくりで素晴らしいものでした。

この作品は丁寧に丁寧に、チェットの半生を追っていきます。

転落から、ジェーンとの純愛、ヘロインとの戦い、失った信頼を取り戻していく過程、ねばり強い努力、チェットのかすれるような演奏。

先ほども言いましたが、この映画はチェットの本質まではもぐりこめていないのかもしれません。でもそんな映画は存在しなくていいのです。チェットのことを皆思い出すようになる、それだけでもこの映画の意義はあるのだと思います。

この丁寧な映画作りは見事です。ただ、映画として特別な名品にまで昇華された、とは言えないと思います。ただ実績のあまりない監督がこの作品を手掛けたというのはすごいこと。チェットへのリスペクトと、彼の伝記映画を作るというい情熱は物凄かったと思います。

ここからは私の思い出語りやチェットへの感想になります。

ある時誰かが言っていたのを思い出します。

「チェット・ベイカーは別に演奏は上手くない。ただ彼はジャズそのものだ」

私はその言葉を聞いたとき、ふと納得してしまいました。

ジャズの歴史は長く、またさまざまなジャンルがあり、それをまとめてチェット一人に体現させることはできません。

ですがジャズの魂といいますか、根源にあるものが、チェット・ベイカーの演奏にあるように思えるのです。

それは言葉では言い表せないものですが、いうなれば侘しさ。

枯れ木に花を咲かせるような、痛ましさの隣にある美しさ。

その奥深さが、チェットの演奏にはあるのだと思います。

チェットの歌声はまさしく、人の心にあるそのようなものを掻き立てるのだと思います。彼の若い頃の歌声は、最初に聞いたとき、まるで女性が歌っているように思えました。極めて中性的で、どこか物悲しく聞こえました。リズミカルな「マイバディー」や「バットノットフォアミー」でさえ、彼の心はずっと遠くあるような気がして、とても神秘的な気持ちになったのを覚えています。

そして「マイファニーバレンタイン」はとても静かな曲となって、不思議な心の揺らぎを私たちに与えてくれます。一気に別世界に飛ばされるような。

そして最後に「アイブネバービーンインラブビフォア」。この映画のラストシーンでジェーンに向けて歌われた一曲ですが、歌詞も歌い方も、その後のソロも、全て胸を震わせます。

この作品内で、マイルス・デイヴィスは常に彼に批判的であります。それもまた印象的でした。確かにマイルスとチェットは一時期ライバルでしたから。マイルスからすると、自分たちの音楽を、白人の女の子たちが喜びそうな軽薄な音楽に変えられてしまったように見えたのだと思います。でもラストではマイルスも認めていますね。それが本当だったかは分からないんですが、黒人たちにもチェットのジャズは刺さったということだと思っています。

良作だったと思います。またジャズに浸ってみたくなりました。

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