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サウルの息子 (2015)

SAUL FIA/SON OF SAUL

監督
ネメシュ・ラースロー
  • みたいムービー 254
  • みたログ 1,150

3.47 / 評価:849件

感情移入出来ない?それはわざとですよ。

  • mht******** さん
  • 2021年1月4日 0時09分
  • 閲覧数 385
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

大体の予想はついてしまうくらいに情報を事前に得てしまってから鑑賞したけど、予想通りだったとはいえ、これがほんとに長編デビュー作? と思うほどのほぼパーフェクトな出来栄えである。

まず言っておかねばならないのは、この作品は、歴史的資料に基づき、歴史家2名の指導を受けて、極めて事実に近い映像にしようとしていることである。この映画が描こうとしたのは、『シンドラーのリスト』のような感動でも『戦場のピアニスト』のような残酷さでもない。アウシュビッツ・ビルケナウのガス室を担当したゾンダーコマンドから見たリアルな史実の再現である。

しかしこの映画で上手いのは、常に主人公サウルのそばにカメラを置き、周囲をぼかして、サウルが何を見ていたのかに集中させることにより、映像を鑑賞に耐えるようソフトにしたことである。

映画は、ビルケナウの駅に着いたユダヤ人のうち、労働不適格者と判別されたユダヤ人をガス室へ案内するところから始まる。この最初から異常なほどにリアルである。ユダヤ人を騙し込んでガス室に誘導する書き方は、実はこれらは全てゾンダーコマンドの証言に基づく。シャワーに入ってもらうといい、シャワーが終わったら温かいコーヒーと食事が待っているといい、そのコーヒーが冷めてしまうから急ぎましょうと言い、またさまざまな職業を必要としているから後で申告して欲しいなどとも言い、脱いだ服をかけたフックの位置の番号を忘れないようにと、シャワーの後があると思い込ませるのである。もちろん「後」などはない、そこには水の出てこないシャワーヘッドがあるだけであり、そして天井の穴から投入されるチクロンBと呼ばれる害虫駆除剤から発生する青酸ガスで殺されるのである。

その後、死体の中に生きていた少年を発見し、この少年をユダヤ教のしきたりに従って埋葬しようと奔走するサウルを中心にビルケナウの様々な場所を描いていくのだが、この少年すらも実は事実である。実は映画の中にも出てくる医師のモデルになった医師が死んでいない少女を発見している(この少女は親衛隊員に銃殺された)。野外で死体を焼却する光景を撮影した話も、暴動のためにカナダと呼ばれるところから爆薬をもらった話(この女性はのちに処刑された)も、川で骨の灰を捨てていた話も、「穴」と呼ばれる埋葬壕で銃殺刑をやっていた話も、ほぼ全て史実に基づく。もちろん暴動もそうである。1944年10月7日にビルケナウの火葬場Ⅳで起きた暴動は、結局暴動に加わったユダヤ人は全員処刑された。

これらの多くのシーンを、普通の映画のように撮影していたら、あまりにグロテスクでガチで見るに耐えない映画になっていたに違いない。死体だけでも1日最大で一万体近くに達することもあったという。現実的にはそれらの大量遺体を製作する必要もなかったという映画制作上の利点もあったかもしれないが。

ただし、史実をあまり知らない人にとっては意味がよくわからなかったかもしれない。その面では観客を突き放した映画ではあり、ホロコーストをよく知らない日本人にとっては実感を持つのは厳しいかもしれない。でも、余計な感情移入をせずに、そのリアルさを鑑賞するのにはちょうど良いバランスになっていると思った。

ともあれ、快作である。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 不気味
  • 恐怖
  • 絶望的
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