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キャロル (2015)

CAROL

監督
トッド・ヘインズ
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3.59 / 評価:2300件

演技派女優の共演に興奮する映画

2015年の『キャロル』は、2016年のキネマ旬報ベストテンで外国映画の2位に選ばれている。アカデミー主演女優賞(ケイト・ブランシェット)と助演女優賞(ルーニ・マーラー)の両方にノミネートされた。タイトルはブランシェットが演じる女性の名前だが、実際には二人に扱いの差はなくダブル主演と言うべきである。
原作は「太陽がいっぱい」でおなじみのパトリシア・ハイスミスの小説。日本では映画の公開を機に初めて出版された。こういうきっかけで埋もれていた作品が日の目を見るのは喜ばしい。女性同士の恋愛がテーマだが、そういえば映画「太陽がいっぱい」でもアラン・ドロンとモーリス・ロネの男同士の恋愛を思わせる場面があった。
本作を観た感想を言葉にするのは難しい。僕は同性に恋愛感情を持った経験がないためか、二人に感情移入するまでは至らなかった。しかし観たあとずっとモヤモヤした感情がまとわり付き、「テレース(マーラー)がキャロル(ブランシェット)をはっきり恋愛対象として意識したのはいつだろう?」などと考え、改めて映画の世界に浸りたくなるのだ。

舞台は1950年代のニューヨーク。字幕などで説明は一切ないが、登場人物のセリフや映像から得る情報で分かってくれという事だろう。ファーストシーンは賑やかなレストランで、中年女性(キャロル)と若い女性(テレーズ)が向かい合って座っている。若い方の知り合いらしい男性が声を掛け、中年女性が譲るように立ち上がり去っていく。別れ際に相手の肩に手をかけるが、お互いの名残惜しそうな様子から、単なる友人以上の仲なのではないかと思わせる。

そして映画は二人の出逢いに遡っていく。クリスマスシーズンのデパートで、テレーズは玩具売り場で働いている(サンタの帽子をかぶったマーラーが可愛い!)。そこに毛皮のコートを着たキャロルが現れ、娘のプレゼントには何がいいか聞いてくる。テレーズは人形コーナーの担当だが鉄道模型について熱心に語り、キャロルはそれを注文して帰って行く。帰り際にカウンターに手袋を忘れていき、テレーズがそれを返送した事をきっかけに二人の交際はスタートする。後で思い返すと、この手袋もキャロルの暗示なのかも知れない。

なぜこの場面をファーストシーンに持ってきたのか。考えてみるとテレーズの心情が変化した(と言うか本当の気持ちに気付いた)ターニングポイントであったのだ。二人はキャロルが主導する形で恋愛関係にあった。テレーズは自分が未熟である事を自覚しており「私は何がしたいのか分からない。誘いを受けたらイエスとしか言えないのです」と、キャロルと深い関係になったのを悔いるような事を言う。
一度は別れた二人だが、テレーズはタイムズ社のカメラマンとして好きな事を自分の仕事にする。その自信がかえって内心を冷静に見つめる余裕を与えたのかも知れない。

二人が恋愛関係に至るまで、映画は多くの伏線を用意している。キャロルは夫(カイル・チャンドラー)と小さな娘がいるが、家庭をかえりみない夫に嫌気が差して家政婦のアビー(サラ・ポールソン)と深い関係になった。そのため離婚裁判となり娘の親権を取り上げられそうになっている。アビーは重要なキャラとして物語のターニングポイントに登場する。
テレーズは写真という本格的な趣味を持ち(自室に現像用の暗室まで備えている)、鉄道模型が好きという当時としては風変わりな子だ。ボーイフレンド(ジェイク・レイシー)からは結婚を迫られ、欧州旅行の誘いを受けているが気乗りしない様子。東欧のチェコ系という出自がミステリアスな雰囲気を助長している。自分に今ひとつ自信が持てない様子の彼女が、キャロルの暗示めいた誘いに乗ったのは自然な成り行きであろう。

いちばんの見所は主演二人の演技である。ケイト・ブランシェットは数多くの人気作を持つが、「エリザベス」や「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズと共に彼女の代表作となった。オーストラリアの出身だが、この国はヒュー・ジャックマンやニコール・キッドマンなど時おり才能豊かな映画人を輩出するようだ。
アメリカの映画界も「ガラスの天井」と言って、女優が中年にさしかかるとオファーが極端に少なくなるという。かつてメリル・ストリープは「中年になったら魔女役のオファーしか来なくなった」と嘆いた事がある。47歳になったブランシェットには、ぜひそんな殻を打ち破る旗手になってもらいたい。
感情を抑制した上流階級の婦人としての物腰、テレーズと二人だけの時間を過ごす場面のハジケっぷり(かえってこの幸せは長続きしない事を予感させる)、そして街中を颯爽と歩くテレーズを車内から見つめる表情など、周囲の空気に溶け込みながら自分の空気を作っていく演技が素晴らしい。こういうのを見ると、日本の女優が彼女の域に達するのはまだまだ遠いと言わざるを得ない。

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