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レディ・ソルジャー (2014)

CAMP X-RAY

監督
ピーター・サットラー
  • みたいムービー 6
  • みたログ 85

3.52 / 評価:65件

B級アクションの様だが骨太の人間ドラマ

  • kug***** さん
  • 2017年3月16日 17時14分
  • 閲覧数 516
  • 役立ち度 2
    • 総合評価
    • ★★★★★

さりとて、原題は固有名詞なので訳は難しい。そして、主人公である「エイミー(クリステン・スチュワート)」は軍務に誇りを持つ女性軍人であり、2000年代初頭の男社会の軍の中で、女性蔑視の文化もあるイスラム教徒の監視に当たる内容では女性軍人であるのは作品において非常に重要な要素なので邦題としては適切ですが、実に安っぽく見えてしまうのが難点。もう少し良い邦題はなかったものか?
 原題の「CAMP X-RAY」とは、キューバにあるアメリカの租借地「グアンタナモ湾」に作られた米軍の収容所で、2002年1月から約3ヶ月間、911テロの関係者と思われる容疑者を強制収容した場所です。当時の政治的、社会的風潮から誰でも彼でも逮捕し、当初は20人だった収容者も増加が見込まれ、8つの収容所の複合体である「キャンプ・デルタ」が作られ、収容者は全てそこへと移送されました。(最終的に12まで拡張。約250名収容)
 エイミーは初期の段階で配属され、囚人の監視を1年間行う任務に就きます。厳密にはX-RAY(X線)よりもデルタの任務の方が遥かに長いのですが、製作側もX線という風変わりな名前が興味を引くと思ったのでしょう。
 さて、この容疑者の収容、ジュネーヴ条約などの国際法に反します。軍が犯罪者を収容すること自体が国際法違反なのに一般人(児童含む)を「怪しい」というだけで、強制収容するなどブッシュ政権下のアメリカでもなければできなかった暴挙。無実と証明する証拠がなければパキスタン系イギリス人、イラク系カナダ人などを次々と収容し、イギリス人、オーストラリア人までもを収容しました。証拠がないので裁判にかける事もなく逮捕、長期拘留され、国際法の手前、その扱いは警察権の対象である容疑者になったり、軍の対象となる捕虜となったり。場所がキューバなので、治外法権の適応でアメリカの領土扱いでありながら、アメリカではないとして、アメリカの国内法や合衆国憲法で人権は守る必要はなく、国ではないので国際法も適応外だと言訳しました。つくづくもブッシュ時代のアメリカは政治力、発言力を乱用する世界の治安を任せられない悪徳警察で、今はその時代を懐かしむ人も多いのだから呆れます。一方、アメリカにはそのような過去を告発し、声高に叫ぶことも出来るところが優れていて、そうでないければこういった映画は作られない。

 このような時代背景、社会背景を認識してから見ないと少々難しい映画かもしれません。軍人となったエイミーの仕事は「犯人として扱われ拘留されているイスラムや中東系の収容者」をただ昼夜監視を続けるだけ。収容者との会話すら禁止され、そもそも言葉が通じないから収容された者がほとんど。砂を噛むような毎日に貧しい異国キューバの食事は口に合わず、上官たちが収容者をゆるやかに迫害するのを見ては心を傷めながらも、その捕虜たちからも時に女性蔑視や侮蔑の言葉を浴びる。時にそれは同僚や上司から「女だから」という理由でも。
 孤独に打ちひしがれていたある時、「金髪(ブロンディ)」と英語で呼びかけ「ハリー・ポッターの続きを読みたい」と英語で話しかける収容者「アリ」と出会う。「全巻揃いと書いてあるのに最終巻がない」という彼だが、エイミーは児童文学どころか読書の習慣がない。「あんたは本も読まないのに俺を監視する。俺は大学まで出てこんなところで」 親切に接してるなのになぜか自分に辛く当たり、隠し持っていた糞尿まで浴びせる彼を理解できずに戸惑い怒りながらも、牢から話かけてくる彼の言葉に興味を持ち、再び少しずつ会話を交わし始める。やがて、アリは自分の身の上を話す。ドイツ人のアラブ語通訳でイスラム教ですらないのに中東系だというだけで逮捕されたのだという。彼はイスラムの礼拝を何度も拒否して監視兵から問題視されていた。彼は何度も英語で「自分はイスラム教徒ではない」と主張しても誰も耳を貸さなかったのだ。エイミーがアリと会話していることに気がついた上官は「収容者は番号で呼べ」と警告し、話せないよう彼女を夜勤のシフトにするが、アリは徹夜して話そうとする。会話を重ねることで二人の理解は深まるが、任期が終わりエイミーは帰国することとなり、絶望したアリは自殺しようとする。

 監視者がいかに傲岸不遜で横暴、冷酷になってしまうかは「スタンフォード監獄実験」とそれを基にした小説や映画「es」などで知られてますが、そうならないように配慮した結果、暴力や殺人は激減しても収容者の人格破壊や偏見の溝を埋めることはできず、自殺も止まらない。興味を持たず虐待しないようにしても昼夜明かりの元で常に監視し、相手を人間扱いせず、好意を押し付けるのでは単なる阻害でしかなく、根本的解決には全くなっていない。
 アメリカだけでなく現在の自分勝手に他者を見下し、正義を押し付けるナショナリズムの暴走にも直結する映画。小作ながら今の世界の誤りの根本を考えさせられます。

詳細評価

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