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リップヴァンウィンクルの花嫁 (2016)

監督
岩井俊二
  • みたいムービー 682
  • みたログ 3,749

3.82 / 評価:3047件

クラムボンのお暇

  • ねじまき鳥 さん
  • 2019年9月20日 21時30分
  • 役立ち度 18
    • 総合評価
    • ★★★★★

七海は、ちゃんと幸せの箱におさまってきた。
なりたかった教師になって。
結婚して、主婦になって。

そこは思い描いていた居心地とは違ったかもしれないけど。
偽物で、インスタントで、寄せ集めかもしれないけど。
外からみれば、ちゃんとそこに収まって見えるだけの肩書きは与えてくれて。

でも、意思が弱いがために。
いや、自分なんてと思って、周りを優先しながら流される方へとふらふら流れるだけだったがために、気づいたら追い出されちゃって。

流されすぎて、もうなんでそうなったかもわからないくらいで。
でも、そうやって流され続けて、頼れる人だけを頼って、それがどんな相手ともわからず、また寄りかかって。

でも、そうやって流され続けたら流され続けたなりに見える景色があった。
自分が頼る人間が本当はどんな奴かなんて気付かなくたって、七海の世界には影響がない。

本名という箱がありながらも、匿名社会に別の名前の箱を持ち、そこで別の思いを吐き出しながら独自の対人関係を築くことができて、時にそれが現実ともリンクしてしまう。そんな社会なんだから。
相手の全てを知らなくたって、自分が見たい世界だけ見ていれば、それで成り立つことだってあるんだと思う。

そんな七海が出会った真白はまた全く違う生き方で。

自分で選んだ道を突き進み、時に手に入らなさそうなものさえ、手に入れようとする。
人生とは、限りあるものだという価値観で、好きなように、好きなものだけを切り取って、好きなように感じながら過ごす。

そんな突き進む真白と流される七海がおりなすウェディングドレスのワンシーン。
ハレの日に、選びに選んで、幸せの象徴のようにうやうやしくもったいぶって着るドレス。
あの日、偽物だらけの祝福に囲まれて来た一着。
もう、今やそれを来た意味すら失ってしまった一着。

それを、ドレスを着る条件なんか全て取っ払って、着たいから、綺麗だから着る。着たい人と着たいように着て、一緒にいて楽しい人とただ一緒にいる。
本人たちが楽しめれば良い、この瞬間、幸せなら良い。この瞬間、何かが分かり合えたようなこの感覚を共有できれば、よい。
この自由。この祝福。

過去とか、肩書きつきの箱とか、客観的な状況で見る物差しもあるけど。
一旦人生のお暇をいただいて。ゆっくり見直してみれば、そこには、そうじゃない、自分だけで感じる物差しだけだって、十分に、生きていける、こともあるんだよ、と。

シュールで、残酷で、美しく。
現実的すぎるような、ファンタジーのように地に足がつかないような。
この振り幅に翻弄されながら、じんわりとガツンと人間ドラマを味わえます。

黒木華の演技はもうただただ素晴らしいの一言。なぜあんなにも弱々しく、自然体で、でもどこか芯があって。そんなキャラを産み出せるのか。決して派手なお顔立ちではないけれど。なぜあんなにも彼女の表情に引き込まれるのか。ぼくたちの失敗、歌声まで心に響きました。
Coccoの痛々しさはもうそのままCoccoで。彼女ならではの独特な存在感で。
そして綾野剛の飄々と世の中を渡る感じがこのストーリーに抜群のシュールな現実感をもたらし。

邦画の魅力、ずずいと味あわせて頂きました。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 知的
  • 絶望的
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