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海よりもまだ深く (2016)

監督
是枝裕和
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  • みたログ 5,031

3.84 / 評価:4,309件

空よりもまだ青く

  • 出木杉のびた さん
  • 2016年5月22日 5時55分
  • 閲覧数 11972
  • 役立ち度 73
    • 総合評価
    • ★★★★★

終盤、樹木希林と阿部寛の会話に、ラジオの放送の音が大きく飛び込んでくる。そこから流れる曲を耳にして、そうか、また歌詞からの引用だったのかと合点がいった。『歩いても歩いても』がいしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」だったのを、知った時と同じ新鮮な驚きを味わうことができた。すっかり忘れていたが、僕の大好きな曲だった。作詞・荒木とよひさ、作曲・三木たかし、編曲・林有三によるこの名曲には、今でも胸が切なくなり、家に帰って何度も聴き返してしまった。映画のタイトルを知った時、ちょっと覚え難いと思った。きっと海よりも深い母の愛の物語かと思い、実際そうなのだが、使われた歌詞の内容的には女性が男性を思う痛いばかりの気持ちが歌われている。歌手とタイトルについては、これから観る人の為に敢えて伏せておきたい。是枝監督曰く、「なりたかったものにみんながなれるわけではないというコンセプトにつながる」。

阿部寛演じる良多は生活力のないダメな男で、妻に見放されて離婚。たまに会える息子と過ごす時間を楽しみにしているが、真木よう子演じる元妻・響子から、“父親ごっこ”と揶揄されてしまう。今必死に父親を演じるくらいなら、何故一緒に暮らしていた時、父親らしいことができなかったのかと責めているのだ。そういえば、『そして父になる』の福山雅治の役名も良多であった。福山良多は子供取り違え事件を通じて、本当の父親に目覚めたのだが、阿部良多もまた、離婚によって本当の父親に目覚めたのかも知れない。しかし、見栄を張ったその父親像というのは、息子・真吾に野球道具を買ってあげることぐらい。そのお金の工面の仕方が実に情けない。しかし、これは自らの父親との思い出から生じた気持ちであり、父から子へ、子から孫へと注がれる愛情の発露であるので、それを必死に取り戻そうとする良多の思いが頼りなくも切なく迫ってくる。タコ型滑り台の中での父子、そして家族三人が一時過去に戻ったかのように、一緒に過ごすシークエンスが素晴らしい。

ダメ息子を母親の深い愛情で見守り続ける淑子役の樹木希林が、相変わらず完璧だ。母子のやりとりがユーモラスに描かれ、クスクスとした笑いを随所に呼び込む。ダメな子ほどかわいいというが、大人になっても手のかかる息子は、いつまでも自分に母の役割を与えてくれる。身も花も結ばない木でも毎日水を欠かさないように、いつまでも一人前になれない息子を見守っている母親像が温かい。息子のダメなところは、親譲りであることが、親子の悲しさでもある。

舞台となった団地は、是枝監督が実際に過ごした場所だという。そんな思い入れたっぷりのロケーションで描かれる、ひとつの家族の物語。そして自分のなりたかったものになれなくて、夢にすがりついている大人たち。この映画は多くの人々の心に、何かしらの切ない感情を呼び起こすことだろう。それでも我々は現実を見つめて生きていかねばならない。毎年必ず襲ってくる台風はメタファーでもあり、家族の絆が試される。

詳細評価

物語
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演出
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音楽

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