レビュー一覧に戻る
キネマ純情
2016年3月12日公開

キネマ純情

822016年3月12日公開

sei********

4.0

ネタバレB級映画の王道を突き進む青春。

 この「キネマ純情」を知ったのは偶然だった。家庭の事情で映画館から遠ざかっていたのだが、たまたま1年ほど前にTwitterで本作主演者の1人洪潤梨氏のtweetを見かけたのがきっかけで、あの井口昇監督がなにやら楽しそうな試みを展開している事を知った。  映画に主演する女優アイドルを募集、ユニット「ノーメイクス」の結成、都内各地で地道な宣伝工作とライブ活動、井口監督渾身の青春映画、低予算映画の王道を行くプロセス、B級映画好きの私にとって絶対に観なければならない作品となった。  過去のレビューで何度か述べたが、メジャーな映画は潤沢な資金と人材が集まるので面白くて当たり前、しかしそれでもハズレはある。また出資者たちの意向による制約がきつく監督ら表現者は思い切った手法が使えないデメリットがあり、無難な内容を選択する事が多い。  映画通の諸兄たちが口を揃えて大手アイドルグループのメンバーが主演する映画が面白くないと言うのはそのためだ。ハリウッドがやたら過去の作品をリメイクするのも大コケを嫌がるスポンサーの意向が強く働いているためだ。  その点、B級映画にはその縛りが少ない。もちろん予算も少ないがそこは監督たちの腕の見せ所だ。画期的表現方法や未来の巨匠や名優というものはB級から誕生していると言い切っても過言ではない。  それでは本題に入ろう。井口監督作は以前から好きだったし前述の洪氏も大阪出身という親近感からというのもあるが、私自身も高校生時代に友人の自主映画を手伝った経験(友人たちの弁によれば邪魔しに来たように見えているようだ)から映画の舞台には違和感なく感情移入できた。  一部でやたら女同士のキスが多い点を批判対象にしているようだが、むしろ思春期の興味の対象を素直に描写していると言ってもいい。  本作で男性は殆ど登場しない女性メインの映画、閉鎖的な女子高の世界に近い。監督脚本が男性なので、この手のテーマにすると男性目線が目立って必要以上に男性が求めるエロさが手でしまう事が多いが、さすが井口監督である。むしろ女子高の漫研の女の子がちょっぴりエロの「やよい」(余談1)の自主映画を創ってもこんな内容になるかもしれない。  学園にありがちな都市伝説や学校七不思議に必ず登場する幽霊や、友人を奪われそうになる嫉妬と焦燥感から疑似同性愛感情に発展する様や、低予算映画の定番のゾンビ映画的要素など、思春期ファンタジー盛り沢山の内容を主演者たちが爽やかに表現している。  キャスティングの巧さの賜物だろう。中村朝佳氏は目ぢからの強さを活かして強引なメガホンをとる映画監督(余談2)、その中村氏に恋愛感情を抱く文学少女的キャラの上埜すみれ氏、長身の柳杏奈氏はやや屈折した女子高演劇部の部長。ノーマルで明るい典型的な女子高生役に荒川実里氏と洪氏、荒川氏は少女漫画に登場するような大人し目の可愛らしいキャラ、洪氏は快活な大阪弁を話す女の子。  これらキャラが巧く噛み合って、人によっては男性目線のエロさに陥りがちの馬鹿馬鹿しい内容に見えるだろうが妙に現実味のある説得性が発生し、洪氏の大阪弁によって清涼感さえ抱く青春映画に仕立てている。 (余談1)「やよい」という単語をおそらく1990年前後に生まれた言葉だと思う。同人誌の仲間の女の子から聞いた話では、「やっぱり、男が、いい」の略らしいが真偽のほどは判らない、諸説ある。  ボーイズラブをテーマに美少年美青年が大勢登場する「少女漫画」を「やよい」と呼ぶ。 (余談2)藝術系大学の映像科の学生で課題のために映画を制作しているという設定。私も藝大にいたので雰囲気が判る。  数少ない男性出演者たちが映画スタッフとして登場するが、彼らは学友でお互いに手伝いあって課題をこなしているのだろう。今回は朝佳が監督なのでレフ版を持ったりなど協力していると思う。しかしあくまで同じゼミの学友であって部下ではないので、作中の朝佳のような態度をとられたら「勝手にしろ」と放り出す。

閲覧数1,000