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走れ、絶望に追いつかれない速さで
2016年6月4日公開

走れ、絶望に追いつかれない速さで

TOKYO SUNRISE

832016年6月4日公開

yab********

4.0

紛れもない現実に対する動揺と決意

 薫という一人の青年が、絵の才能に見切りをつけてサラリーマンになり、大阪勤務になり、理由はわからないが亡くなった。  薫と学生時代同居していた漣と薫の恋人だった理沙子は、彼に対する思いを捨てきれずにいた。  漣と理沙子は、薫と言う名の過去に呪縛されていた。  薫が残した中学時代の初恋の女性の絵。漣はその女性に薫の死を伝えるために旅に出た。  自分はある人間をずっと思い込んでいても、相手は忘れ、もはや違う次元に生きている。  この作品は、その現実を直視するのではなく、かといって斜めに見ているのでもない。  当時自分が言った言葉も憶えていないし、相手が言った言葉もすでに忘れている。  現実の自分は、相手の思いを受け止める余裕もなく、受け止めるというよりは、他人行儀を押し通す。  とても現実感あるシーン。漣が薫の初恋の女性に、薫の絵を見せた時に、彼女が言った言葉。  「自分の問題は自分で解決してもらってもいいかなあ」。  もはや彼女の問題からはとっくのとうに消し去られたもの。そっちだけが消し去れない問題を、こっちに投げ返さないでほしい。キャバクラの店内は、もはや純粋な思い出を語る場所とは思えない。  薫が漣に、よく言っていた彼女の言葉である、「絶望に追いつかれない速さで走れ」も、彼女が中学にはまっていたビジュアル系バンドの歌詞にすぎないという拍子抜けのオチ。  自分の強い思いとはうらはらに、時は過ぎ、友人や、恋人は、自分が生きるのに精一杯。感傷なんかに浸っている暇などない。そんな一方的でひとりよがりのロマンチックな妄想に、お付き合いなどしてくれない。  その紛れもない現実を突きつけられてたじろぐ漣の動揺と、普通の現実の中にその思いを風化させなければ、という漣の決意が交錯するクールな映像が胸を打つ。

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