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イレブン・ミニッツ (2015)

11 MINUT/11 MINUTES

監督
イエジー・スコリモフスキ
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2.75 / 評価:292件

観終わった後は空を眺めたくなる

2015年のポーランド映画『イレブン・ミニッツ』は16年のキネマ旬報ベストテンで外国映画の8位に選ばれた。監督・脚本のイエジー・スコルモフスキは60年代から活躍している大ベテランだ。私の知っている映画だと1971年の「早春」(ジョン・モルダー=ブラウン主演)がある。本作のような実験的な作風の映画を手がけるとは、監督の年老いても衰えぬ瑞々しい感性を表しているようで喜ばしい。
スコルモフスキ監督と日本との縁を書いてみると、08年の「アンナと過ごした4日間」が東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、興行的にも成功を収めたという。余談だが、東京映画祭をきっかけに飛躍した作品といえばフランス映画の「最強のふたり」が有名だが、東京映画祭も早くカンヌ・ベネチア・ベルリンの3大映画祭と権威を並べるイベントに成長して欲しい、と思う。

エンドロールを除くと正味1時間15分程度というコンパクトな長さだ。ラストで登場人物の運命を一変させる大事故が描かれるので、ネタバレ抜きで語るのは難しい。物語の主軸としてこの事故があり、それに巻き込まれた人々の行動を11分間に遡って肉付けして映画にしたようだ。映画の時間経過は17時から17時11分までという事になる。
11という数字は否応なく9.11テロや東日本大震災の3.11を連想させる、不吉な響きを持つ数字である。主要な舞台となるホテルの部屋番号も「1111」という凝りようだ。本作の難点を挙げると登場人物のドラマが今一つ面白くなく、感情移入できる人物もいない。他人の人生を覗き見るという映画の醍醐味をあまり味わえない。よって私的評価は★3つとなった。

ポスターに写っている登場人物は4人。一番目立つのは女優アンナの青い目のアップで、ホテルのバルコニーから転落するラストシーンである。他に髭面で左目の下に傷を付けたアンナの夫(こいつが大事故のきっかけを作る)、11分間で最も広範囲を移動する麻薬の運び屋、アンナに色目を使う映画監督が写っている。この4人が一応の中心人物と言っていいだろう。
他に産気づいた女性を救出して救急車に収容する女性医師、出所したてのホットドック売り、川岸で写生している老画家などが印象深い。ポスターには窓から見える時計塔、ホテルの部屋を写すタブレットカメラ、パトカーの追跡を振り切ってハイウェイを疾走する運び屋のバイク、低空飛行する飛行機、超スローモーションで割れるシャボン玉、町中を走る救急車が写っている。どれも都会の一断面を覗くような印象的な場面である。

私はポーランド映画を観た経験はあまりない。映画で覚えているポーランドのイメージといえば「戦場のピアニスト」で廃墟と化したワルシャワの町、アウシュビッツの強制収容所、カティンの森といった戦争に因んだものばかりだ。本作は現代のワルシャワを舞台にしており、麻薬中毒者が暴れるような荒んだ箇所も映されていて、これはこれで貴重な映像記録であった。
ポーランドと言えば、80年代の初頭にこの国の民主化運動が毎日のようにニュースで流され、ワレサ委員長とかヤルゼルスキー議長といった名前をおぼろげに記憶している。この時代にアンジェイ・ワイダ監督の「鉄の男」といった映画が作られ、日本映画の「影武者」や「楢山節考」などと競いつつ海外の映画祭で華やかな話題を提供したのを覚えている。

今にして思えばポーランドの民主化は80年代末にドミノ倒しのように発生した東欧の民主革命の先駆けであった。一歩間違えばハンガリーやチェコのように、ソ連軍の介入により流血の動乱が起こってもおかしくない状況であったのかも知れない。
本作のクライマックスのように人間の何気ない行動がドミノ倒しのように大惨事を呼んでしまう描写は、ポーランドという国が辿りそうで辛うじて回避した、もう一つの運命だった、と考えるのは穿ちすぎだろうか?中東の民主化運動がかえって国内の混迷を深めてしまった今だからこそ、余計にそう思うのだ。

一番の謎現象は、空に現れる黒点である。登場人物の何人かがこれを視認して首をひねる。私たち観客は町を監視するモニターの映像として小さな点を見るだけである。小さい頃に読んだUFOの本で、重大事故や災害の現場にUFOがよく現れるという文章があったのを思い出した。結局この黒点の正体は分からずじまいだ。マルチスクリーンが無限に増殖するラストカットで、画面の左上に黒煙に包まれた事故の画像のみが黒い点として残るという意味ありげな終わり方をするが、私はこのラストに今一つ乗ることができなかった。
堅苦しい事を書いてきたが、観終わった後外に出ると、つい黒点がないかと空を見上げてしまう。何の変哲もない青空が広がっていることに気付き「ちぇっ、つまらないや」と呟く。『イレブン・ミニッツ』は私にとって、そんな映画であった。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 不思議
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  • 不気味
  • 恐怖
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