ここから本文です

エル・クラン (2015)

EL CLAN/THE CLAN

監督
パブロ・トラペロ
  • みたいムービー 98
  • みたログ 306

3.27 / 評価:210件

解説

アルゼンチンで起こった事件を映画化し、第72回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた犯罪ドラマ。平和な街で多発する富裕層だけを狙った高額の身代金誘拐事件をきっかけに、ある裕福な一家に隠された秘密が描かれる。近所から慕われるプッチオ家の主を、『瞳の奥の秘密』などのギレルモ・フランセーヤが怪演。スペインの鬼才ペドロ・アルモドバルが製作を務め、『セブン・デイズ・イン・ハバナ』などのパブロ・トラペロがメガホンを取る。

シネマトゥデイ (外部リンク)

あらすじ

1983年のアルゼンチン、裕福なプッチオ一家は近所の評判もよく、幸せに生活していた。ある日、二男が通う学校の生徒が誘拐され消息を絶つ。それ以来、一家の周辺で金持ちだけがターゲットにされる身代金誘拐事件が続発し、近所の住民たちは不安を募らせる。一方、いつも通りの生活を送るプッチオ家では、父アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)が鍵のかけられた部屋に食事を運ぶと……。

シネマトゥデイ (外部リンク)

映画レポート

(C)2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
(C)2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO

「エル・クラン」家族ドラマと異常犯罪がアンバランスに一体化した実録誘拐映画の怪作

 サスペンス映画の人気サブジャンルのひとつである“誘拐映画”には、映画史上いくつもの傑作や秀作が存在する。誘拐犯と警察の駆け引きを軸にしたオーソドックスなものや、日本映画によく見られる登場人物の“情”を押し出したものなど、実にバリエーションが豊富で、トリッキーなひねりを利かせた異色作も少なくない。筆者にとっても大好物のジャンルなのだが、ここで紹介する「エル・クラン」ほど奇妙で、異常な誘拐映画には滅多にお目にかかれない。軍事独裁から民主政権へと国家体制が移行した1980年代前半のアルゼンチンで起こった実話の映画化。俗に“事実は小説より奇なり”と言うが、まさに純粋なフィクションでは思いつかない筋立ての怪作だ。

 身代金目的の誘拐は強盗のような単純な犯罪と比べると、格段にいろいろ手間がかかる。そのひとつに人質の監禁場所をどうするかという問題があるが、本作の主人公で誘拐グループの首謀者である初老男アルキメデス・プッチは、何と白昼堂々と路上で拉致した人質を自宅のバスルームや地下室に監禁してしまう。アルキメデスには妻と3人の息子、2人の娘がおり、一家が揃って夕食を囲む温かな日常風景と非人道的な凶悪犯罪が同じ建物内に平然と共存しているのだ!

 そのほかにも不可解な点はいくつもある。アルキメデスは家族を心から愛しているようだが、なぜかラグビーのスター選手である自慢の長男に悪事の片棒を担がせ、彼のチームの同僚をさらって惨殺したりする。そもそもこの一家は経済的に困窮している様子はなく、成功率の低い身代金誘拐を二度三度と繰り返す動機も不明だ。パブロ・トラペロ監督は良心の呵責に苛まれる長男の極限心理を巧みにドラマ化しつつも、あえて筋の通ったわかりやすい解釈を盛り込まず、謎を謎のまま観客に突きつけてくる。その一方で軍事政権下の秘密警察に所属していた主人公をかばう勢力の存在をほのめかし、時代の特異な闇をあぶり出す。実録ドラマとしての生々しさと不条理のバランス感、いやアンバランス感が何とも絶妙なのだ。

 劇中に二度流れるキンクスの挿入歌「サニー・アフタヌーン」のチョイスも秀逸だ。一度目は威勢よくポップでシニカルに鳴り響くこの曲は、二度目には一家の破滅をメランコリックに彩ってみせる。犯罪者目線で描かれる誘拐映画にはバッドエンディングが付きものだが、本作のそれはとびきり衝撃的なショットで表現される。そしてラストに提示される後日談のテロップ、その冗談のような“事実”にも唖然とするほかはない。(高橋諭治)

映画.com(外部リンク)

2016年9月8日 更新

本文はここま>
でです このページの先頭へ