兄弟愛が母親の死を乗り越えていく
- yab***** さん
- 2017年8月10日 17時15分
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戦場カメラマンの母親の死を受け入れるということ。単なる事故死ではなく、自殺の可能性があったということを、父親は息子2人に伝えなければならない。しかし、兄は妻子との家庭に行きずまり、弟は殺し合いのゲームばかりに興じ、引きこもりがちになる。
母親の死を受け入れられないまま、兄弟は自分自身に苦悩し、教師という職業柄、説得は得意のはずの父親はなすすべもないままに、次男を不安のあまり尾行し、一方で次男の担任の女教師との情事に走る。
しかし、この作品はけっして親子の葛藤や、父親と亡き母親の葛藤をだらだらと描いているわけではない。ましてや、父親の男の部分、母親の女の部分をいたずらに露わにしているわけでもない。
親にとやかく言われなくても、兄弟が心の触れ合いによって、母親の死を乗り越えていく姿がきちっと描かれている。兄は、昔の彼女に再会し、弟は好きな女の子ができる。そんなふうにして、兄弟は男同士お互い共感を覚えていく。
弟が好意を寄せる女の子(チアリーデイングで骨折)を兄弟2人で高校のグラウンドに観に行った際、文才のある弟を、兄がこう励ます。
「(高校)はルックスや社交術による格付けが世界一シビアな場所だ。だからあれ(弟が書いた文章)は見せるな。彼らが逆立ちしたってお前には敵わないのに、お前がつぶされるんだ。あと数年息を潜めて妙なことは考えるな。分かるな?」。
弟を諭しているのではなく、自分に言い聞かせているような口調。青春の甘酸っぱい時代と大人の社会のギャプをひしひしと実感しているかのような語り口。プライドに宙吊りにされそうになるのを抑えて、兄は弟に語りかける。静かに頷く弟。父とは全く異質の、兄の弟を思う気持ちが滲み出る。
弟は新聞で知る。母親の死の真実を。そして、自分が好意を寄せる女の子とパーティーの後夜道を歩いている時に、不意に涙が頬を伝う。自らの意志できちっと母親の死を受け入れた弟。それも好きな女の子に揺れ動く気持ちのさなかに・・・。帰宅後、弟は父親の胸で何度も、「大丈夫」の一言を繰り返す。
兄弟は、またひとつ心の成長を遂げる。そして、無意識のうちに母親がいないことを心に刻んでいく。じめじめしていないその静かな余韻に心が揺さぶられる。
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