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リメインダー 失われし記憶の破片

くそげーまにあ

3.0

ネタバレ実は物理学?あるいは妄想?と芸術の映画

「映画になってないとか」「意味がわからん」というレビューが多すぎるので、個人的に見解を。  コレはいわゆる「世にも奇妙な物語」として、向き合わなきゃダメな映画。原作はイギリスの小説家「トム・マッカーシー」の同名作品(邦題は「もう一度」)。  事故で記憶を失った青年は、高額の慰謝料をせしめてくれた弁護士と組んで、金にあかせて「うっすらと残る記憶を手がかりに、過去を役者たちを使って再現することで、記憶を取り戻そうとする」という話。  それをイスラエルの芸術家で映像作家でもある「オマー・ファスト」が映画化。彼にとっては初の長編映画監督となる。  で、ここからイキナリ、ネタばれです。この映画、オチだけが命みたいな作品なので、行をしっかり空けます。  コレはタイムスリップ(タイムリープ)の映画ではありません。起こっているのは全て「事象の再現」なのです。  ただし、コレには二つの解釈が存在します。  解釈1 主人公は「同じようなこと」を延々と繰り返している。  これは物理学的な解釈で、金に飽かせて同じ現象の再現を行っているためによく似た状況が何度も繰り返されているということです。  つまりは、「塩酸と石灰を混ぜると必ず二酸化酸素が発生する」ように、お膳立てをそろえてやることで同じ結果が出る。しかし、原因や結果が同じでも「まったく同じ材料から同じ二酸化炭素が発生しているわけではありません」。同じように本作では、主人公だけが同一人物で、後はすべて「よく似た他人」で、時間は繰り返されることなく、ずっと経過しているのです。コレは物理学的な現象を芸術的にアプローチし、カリカチュアした解釈であり、物理学的にも「観察者」という同一存在があってこそ、量子力学的な現象が発生するという学説からも合致しているでしょう。つまりは化学実験のように毎回概ね同じ結果を繰り返しているのです。そして、この話では結果と原因が直接つながっている。良く似た他人で現実を再現すれば同じ結果になる。これは現実的にはありえないと思える話ですが、「人間の主観」という切り口で見れば、他人など所詮は誰でもいい他人でしかなく、良く似ていて同じ振る舞いさえすればいい。コレは主人公のネコに対する非情さが端的にあらわしています。まじめに考えれば、物理学的には結果は常に「揺らい」で似て非なる物なので、完全再現であれ何度も繰り返されていくうちに別の結果が出ることもあるでしょうが。  とはいえ、結局は「そういった味付けの寓話」なので、言ってしまえば、極論であり、「世にも奇妙な話」なのです。  解釈2 実は脳内トリップ  原作には金にあかせて、過去を完全再現しようとする主人公は自分のことを、「世界を創造する神」のように錯覚しそうになるという描写があり、またその行為に興奮して、脳内麻薬で快感を覚えているという描写があります。  ここだけに注目すれば、全ては金の力で何でもできるかのように錯覚した「主人公の妄想」でしかないとも解釈できます。妄想なので同じことが何度も繰り返されるのです。  以上、二つの解釈のいずれか、あるいはその両方が入り混じったものが本作の答えといえます。  原作自体も、非常に不可思議でミステリアスな展開が丁寧に描かれてから、突然オチがついて拙速に終わるという急展開なので、後半の展開に雑さを感じるのは原作どおりともいえます。  しかも、監督は芸術家で長編初監督作。そういった部分がうまく出ている部分もあれば、こなれていない部分も多い。個人的には、気持ち悪くて、ミステリアスで、人間存在を問う哲学的な奇妙な作品で、一見の価値はあります。

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