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エルミタージュ美術館 美を守る宮殿
2017年4月29日公開

エルミタージュ美術館 美を守る宮殿

HERMITAGE REVEALED

832017年4月29日公開

koukotsunohito

4.0

歴史の映し鏡たち

ちょうど「大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち」の開催と同時に公開されていて、併せて観ることで世界三大美術館の一つ“エルミタージュ”への理解がより深まります。 エルミタージュの成り立ちからその収蔵された代表的な美術品の由来までが丁寧に語られ、それらに刻まれた250年の歴史を感じさせる。女帝エカチェリーナ2世によってコレクションされたものから始まって、美術館自体が貴重な歴史の一部だということが実感できる。 それはもともとは個人の収集品だったと同時に、ロシアの国力を海外に示すための国策の一環でもあった。高価で歴史的価値のある美術品をどれだけ多く所有できるかをヨーロッパの国々に知らしめること。 そして歴代館長や学芸員たちの尽力によってかけがえのない美術品たちが戦火から守られた史実。国の威信のために失われた多くの命。 それにしても、これほどまでに時代に翻弄された美術館だったとは。 絵画や彫刻たちが疎開を余儀なくされ、額縁だけになった美術館をロシア軍兵士たちに作品の解説をしてまわった学芸員と、それに熱心に耳を傾けた兵士たちのエピソード。対ナチスドイツの「レニングラード包囲戦」で街が破壊され市民の多くが餓死した時代に美術品を守ることがどれほど困難だったか。 人々と同様に街からの脱出もかなわなかった美術品たち。 その美しさの中に、数々の悲しみや痛みを宿らせてもいる遺されたコレクションたち。 ミハイル・ピオトロフスキー現館長の「美術品は必ず展示されて人々の目に触れなければならない」という言葉。 人々の目から目へ受け継がれ共有されることで、その歴史もまた語り継がれるのだ。 そして、何世代にも渡って受け継がれる美の遺産は生きている。展示方法に工夫を凝らし、いつでも新鮮で刺激的。 人の命は何よりも大切だが、美術品が大切にされる世の中はそれを観る人々の心にも余裕をもたらして、より豊かなものになると思う。美術品が粗末に扱われる時代は人々の命さえも粗末に扱われる。 またその維持のためには当然美術館は政治とも無縁ではいられない。時の権力者との関係によっては、いつ何時また危機に見舞われるかわからない。美術に関心の薄い為政者によって散逸や永遠に作品が失われる可能性もある。 美とその歴史が形となっているモノたちを守っていかなくてはならないのだ。 この映画を観たあとには、これまでと違った目で美術品たちを観られるだろう。 それは“彼ら”がたどった歴史に生きた人々の姿を映した鏡でもあるのだから。

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