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そうして私たちはプールに金魚を、
2017年4月8日公開

そうして私たちはプールに金魚を、

- 2017年4月8日公開

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5.0

言葉と行動が逆、逆説的な青春映画

■埼玉県狭山市の女子中学生の鬱屈と逸脱を描く。と見せかけて、実は女子中学生4人が無軌道に駆け抜ける青春映画だと思う。ポイントは、彼女たちの言葉を鵜呑みにするのではなく、その行動をあるがままに見ることだ。 ■テーマの現代性、テンポの良さ、ディテールの描写と、第33回サンダンス映画祭グランプリ(2017)、第8回札幌国際短編映画祭・最優秀国内作品賞・最優秀監督賞・最優秀編集賞(2017)は、妥当だと思う。 ■現代の「田舎」の若者が「地元」で成長・結婚・出産・完結する閉鎖性は、「ソフトヤンキー」と呼ばれる社会現象だ。『SRサイタマのラッパー』も思い出した。 ■が、田舎の女子中学生の描き方が、面白い。もはや子供の純情さはないが、まだ女の色気にも程遠い。可愛くもないし、美しくもない。異質な動物臭みたいな生々しさがある。 ■彼女らの自己評価は低い。独白は後ろ向きだ。倦怠感に加え絶望感すら感じる。が、彼女らの行動と展開は、ネガティブな言葉の逆方向を突っ走り、青春のキラメキを見せる。 ■愚痴は多い。自分も家族も平凡で、狭山で一生を過ごすしかない。中学生活は退屈でつまらない。4人の友情も信じられない、などなど。しかし、本音は逆だと解釈すると、腑に落ちる。 ■本当は、自分が好き、4人の友情が好き、ダメダメな家族も嫌いになれない、口では逆を言うけど水泳部も顧問も好き、アイドルになった同級生は羨ましく焦る、生まれ育った故郷もやっぱり好き。本音を逆の言葉でしか表現できないところに、女子中学生の意外に素直な反抗期がある。 ■狭山の緩い生活を疑う批判精神こそ、青春の特権だ。『17歳』でデビューした同級生出身のアイドルに嫉妬し、親友の友情にも自信を持てない不安こそ、若者の感受性だ。だからこそ、彼女らは思い切った行動に踏み出せた。 ■彼女らはその冒険を無意味だったと後で総括し、その後も平凡な人生が続くとまとめるが、その独白は嘘だ。4人で『17歳』をカラオケで歌い飛び跳ねた狂騒と団結は、若さが弾けて眩しい。プールの金魚も青春の結晶だ。 ■彼女ら自身が「平凡」と感じる反抗や批判にこそ、中学生だけの青春と特権が結晶している。日常に疲れ切った「本当に平凡」な大人は、そこに反抗心や批判意識すら持てないからだ。 ■大人でも子供でもないからこそ持つ、「無駄」なエネルギーと友情の輝きは、本人に自覚できていないだけだ。おっさんには、触れたら壊れるほど貴重な宝物のようにキラキラして眩しい。周囲に文句を言えば言うほど、自分が育ってきた環境に対する愛憎が逆説的に際立つ。 ■彼女らの心の中の金魚が生き続ける限り、彼女の人生は決して平凡なものには、もはやならない。彼女らは大人になったら故郷を出ていくのかもしれない。しかし、そのときは、あんなに嫌だった中学時代と故郷を、愛憎を取り混ぜて懐かしく思い出すに違いない。 ■エピローグでの彼女らの独白は「平凡な未来」を強調するが、鑑賞者には「それは違う」と伝わるため、鑑賞後の感覚はとても爽やかだ。逆説的にひとひねりはしているが、現代的な新しい青春映画だと思う。

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