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ゲット・アウト (2017)

GET OUT

監督
ジョーダン・ピール
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3.72 / 評価:2,322件

黒人カメラマンが味わう異常体験

今回取り上げるのは2017年10月に公開されたアメリカ映画『ゲット・アウト』。低予算映画ながらアカデミー賞の作品賞・監督賞・主演男優賞などにノミネートされる人気作となり、ジョーダン・ピール監督が見事脚本賞に輝いている。恋人の実家に招かれた黒人青年が体験する恐怖を描いたスリラー映画で、ネタバレしない程度にレビューを書いていきたい。
主演のダニエル・カルーヤは、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の出世作となった「ボーダーライン」で、女性主人公の精神を気遣う気のいい相棒を演じていた。他の出演者で僕の知っている俳優はいなかったが、可愛い白人の彼女を演じるアリソン・ウィリアムズと、ラスボス風の貫録がある盲目の画商を演じるスティーブン・ルートに注目したい。

ファーストシーンは道に迷った黒人が、「似たような名前の通りがいっぱいあるな」とぼやきながら深夜の住宅街を歩く場面である。深夜営業のコンビニやファミレスが多い日本の街とは異質な感じがする。どんな経緯で道に迷ったのかなと思っていると、白い車がゆっくりと近づいてくる。危険を感じた黒人が逃げようとすると、異様な仮面を付けた怪人に襲撃され・・・。
観終わった後で思い返すと、この幕開けはドラマ「ルーツ」などで描かれた、奴隷制度が生きていた時代の黒人狩りを連想させる。映画は主人公クリス(カルーヤ)と恋人ローズ(ウィリアムズ)の物語に移行し、将来を誓い合ったカップルが一方の実家を訪問する場面となる。クリスはローズを愛しているが、異人種間のカップルである事に負い目を感じている様子だ。

音楽の使い方がとても上手い。冒頭の襲撃シーンでカーステレオから流れるのがのんびりしたメロディの曲で、画面に映るシーンとのギャップが不安感を増幅させる。そしてバイオリンの不協和音に続いて、タイトルに合わせてメインテーマが流れる。囁くようなボーカルと、英語でない言語(スワヒリ語か?)がアフリカの呪術を思わせインパクト抜群だ。
このメインテーマはラストシーンでも流れる。次にスタイリッシュな部屋の内部が映り、流れるのが落ち着いたシティポップス風の歌で、観る者をホッとさせる。ここでクリスの写した写真、恋人のローズなど必要な要素が紹介される。クリスの飼う室内犬の存在も、気のいい親友のロッド(リル・レル・ハウリー)が彼の留守を預かる重要な伏線となっているのだ。

ローズの実家に車で向かう途中で、二つの不協和音が発生する。一つはいきなり飛び出してきた鹿を撥ねてしまう場面。これ自体はドラマには絡まないが、冒頭の襲撃場面と共に嫌な印象を残す。横たわる鹿を見つめるクリスの、幼い頃の辛い記憶が蘇り、これが物語の本筋に関係してくる。あまりネタバレはできないが、鹿そのものがクライマックスで大きな役割を果たす事になる。
通報でやって来た白バイ警官は、運転しているローズの免許証だけでなく、同乗者であるクリスにも身分証の提示を命じる。「彼は(運転していないのだから)関係ないでしょう?」とローズは抗議するが、クリスは面倒を嫌がって警官に従う。人種偏見の残る場所なのか、黒人と白人のカップルを見た警官が犯罪の匂いを感じたのか。さり気なくアメリカの暗部を感じさせる場面である。

ローズの父親(ブラッドリー・ウィットフォード)は医師、母親(キャサリン・キーナー)は精神科医で裕福な家庭のようだ。家政婦や庭師は黒人で、父親の話によると祖父の介護のために雇った二人を、祖父の死後も継続して雇い続けているという。でき過ぎた話と、家政婦の仮面のような作り笑顔に何とも言えぬ違和感を覚えるクリス。
オバマ前大統領の名前が登場し、「私はオバマ大統領を支持している」という言葉は「自分は人種差別主義者ではない」という宣言と同義である事が分かる。僕は日本人で細かいニュアンスまでは分からないが、偏見を持っている人がそれを認めたくなくて言いがちなセリフだなと思う。本作にはアメリカ人であればピンとくるネタが多いのであろう。

僕が実際に黒人と白人のカップルを見たのは、90年代にパリに旅行した時だ。デフォンス地区の新凱旋門近くの公園で、黒人男性と白人女性が寝転がりながら抱き合っているのを見て、パリに来たのだという感慨を強くした。時刻は夜9時近くなのに外は昼間のように明るく、ここは時間の感覚も物の考え方も、日本とはまるで違うのだと思ったものである。
最後になるが、アメリカはカルト宗教とか秘密結社が本当に似合う国である。最初にそれを思ったのは清教徒(アーミッシュ)を描いた「刑事ジョン・ブック/目撃者」を観てからだろうか。自由で開放的なイメージの裏に他者に容易に心を開かぬ面、あるいは一見友好的に見せて無警戒な者を飲み込んでしまう、そんな恐ろしさを秘めているのがアメリカなのだと思う。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • パニック
  • 不気味
  • 恐怖
  • 絶望的
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