ここから本文です

ナチュラルウーマン (2017)

UNA MUJER FANTASTICA/A FANTASTIC WOMAN

監督
セバスティアン・レリオ
  • みたいムービー 920
  • みたログ 604

3.49 / 評価:281件

悲劇と障害に立ち向かう女性の物語

今回取り上げるのは今年の2月に公開された『ナチュラルウーマン』。ベルリン国際映画祭では脚本賞に当たる銀熊賞を受賞し、今年のアカデミー賞では南米チリの映画としては初めて外国語映画賞を受賞した。僕は本作をほとんど前知識がない状態で観たので「次に何が起こるのか」というサスペンス映画のような緊張感を持って観ることができた。
日本とチリは太平洋でつながっており、「チリ沖で発生した地震が津波になって日本の海岸に到達した」といったニュースに接することがある。しかし日本とほぼ地球の反対側にあるため、我々が映像などで見る機会の少ない国でもある。本作の舞台は首都サンチャゴであり、洗練された首都の顔や、落書きの目立つスラム地区など、町のさまざまな表情を見ることができる。

表題に「障害」と書いたのは主人公マリーナ(ダニエラ・ベガ)の性的嗜好のことではなく、彼女が直面する周囲の無理解とか偏見、ときには肉体的な暴力のことを指す。僕が普段生活していて、なかなかマレーナのような人物と知り合う機会はないが、映画を通じて遠い国の異なる価値観をもつ人物の生き様に触れて深く共感する。これが映画を観る醍醐味なのだと思う。
ダニエラ・ベガの強い目力や立ち振る舞いの美しさ、言葉を超えた存在感が圧倒的だ。トランスジェンダーを描いた映画では日本映画にも「彼らが本気で編むときは、」という名作があるが、「彼らは・・・」のリンコは嫌なことがあると編み物をし、本作のマリーナはパンチングボールをぶっ叩く。トランスジェンダーと一口で言ってもさまざまな個性があるのだ。

ファーストシーンは巨大な滝のド迫力の映像である。南米に詳しくない僕でもイグアスの滝であることは想像がつく。次にサウナでくつろぐ初老の男性オルランド(フランシスコ・レジェス)が登場し、会社の経営者であるらしい。何かの書類を置き忘れたようであちこち探しているが、そのうち諦めてナイトクラブを訪れる。この時点では何が起こるか分からないオープニングだ。
イグアスの滝、サウナ、忘れ物、そして地位の高い男性。これらは後のストーリーに大きくからんでくる要素である。ナイトクラブで歌う若い女性がマレーナであり、歌いながら客であるオルランドに目で挨拶する。二人は年の離れた恋人同士であり、中華料理店でマレーナの誕生日を祝った後でオルランドの自宅へ。親子ほど年の離れたカップルだが、二人は心底幸せそうであり、僕はマレーナとの関係はいわゆる一般的な男女のそれだと思っている。

ここからストーリーが大きく動き出す。ベッド上で急にオルランドが体調の不調を訴え、挙動不審となって階段から転げ落ちたりする。慌てて車で病院に搬送し、救急隊員に治療を任せるが、この時点でオルランドの意識は混濁している。マレーナの身元を確認した病院関係者が不審な様子で「名前は愛称ですか?」と聞くあたりで、そういえば彼女の声はちょっと低かったな、身体もスレンダー体型だった、そうか元男性なのかとピンと来るのだ。

オルランドは動脈瘤のためあっけなく世を去ってしまう。彼の身体に階段から落ちた傷が残っていたため、警察は性犯罪による暴行を疑い、半強制的にマレーナの身体を検査することになる。何の罪もないマレーナはトランスジェンダーであるがゆえに、屈辱的な仕打ちを受けてしまうのだ。それに加えてオルランドの親族からも冷酷な態度で接せられ、恋人の死を弔うことさえ許されない。そんな八方ふさがりのマレーナが、どのように精神的な復活を遂げるのかが本作の大きなテーマとなる。

ときおりマリーナの心象風景と思われる非現実的な映像が挿入され、これが本作を特徴付ける印象的なシーンになっている。たとえば、いきなりとんでもない逆風が吹いてきて、身体を前方に大きく倒しながら風に逆らって歩くシーン。照明が落とされたディスコの中で、マレーナが突然ステージ衣装に変わって歌い踊るミュージカルのようなシーン。
死んだオルランドの幻がひんぱんにマレーナの前に姿を現すのもそうだ。そして、彼の幻に導かれるように火葬される寸前のオルランドの遺体と再会するクライマックスも忘れられない。冒頭に出てくるイグアスの滝はマレーナの心象風景ではなく、彼との思い出にケジメをつけるために彼女が本当に訪れて、実際にマレーナの見た風景だと信じている。

最後に音楽の魅力について書いてみたい。中盤に今年亡くなったアレサ・フランクリンの「ナチュラルウーマン」という、邦題そのままの曲が流れる。全編に流れるBGMはサスペンス映画のようでカッコいい。そして忘れてならないのは、ドレスアップしたマリーナがラストで歌うヘンデル作曲の「オンブラ・マイ・フ」。この迫力は圧倒的で、映画で感じたさまざまな負の感情が一気に押し流されて、清浄な世界に移り替わるような感動があった。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 泣ける
  • 悲しい
  • ファンタジー
  • ロマンチック
  • 恐怖
  • 勇敢
  • 絶望的
  • 切ない
  • セクシー
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ