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家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。 (2018)

監督
李闘士男
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3.35 / 評価:1161件

家の中で妻が気絶していた事があります

今回取り上げるのは、2018年の角川映画『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』。主演の榮倉奈々は賀来賢人の奥さんで、本作の公開直後に一人目の子供を出産している。夫(安田顕)の勤める会社の後輩役は、当初は小出恵介が演じていたが不祥事のため降板、急きょ大谷亮平を代役として撮り直したため公開日が遅れたという経緯がある。
気楽に楽しめるコメディ映画だが、加賀美ちえ(榮倉)の死んだふりに飽きた頃に、夫の同僚の佐野夫妻の離婚、ちえの父親(螢雪次朗)の心臓発作、クリーニング屋店主(品川徹)の飼っていた文鳥の死、ちえの母親が亡くなった幼い日の回想と、シリアスなエピソードが続く。退屈する部分もあるが爽やかな後味が残る映画で、私的評価は★4つである。

死んだふりの中で最もインパクトがあるのは、ポスターに使われた頭をワニに食われた姿だろう。ヌルヌルした唾液まで再現する凝りようだ。使われるのはクロカイマンの2分の1モデルで、加賀美家を訪問した佐野由美子(野々すみ花)がこれを気に入り、旦那の壮馬(大谷)と一緒にワニを抱えて夜の街を闊歩する姿が、とても印象的な見せ場になっている。
ちえの死んだふりは次第に大がかりな舞台装置になってきて、死んだふりというより一人コスプレ大会となってくる。グレイ型宇宙人に拉致されたちえを発見した夫・じゅんが「これはキャトル・ミューティレーションだ!」と叫ぶが、「キャトル・・・」とは家畜などが宇宙人の手で切断される現象を指すので、これは「アブダクション」と呼ぶのが正しいだろう。

9頭身の榮倉さんはどんな格好をしても似合うのだが、ビジュアル的に美しいのは和服姿の極妻が抗争に巻き込まれて死んだ姿、仮死状態で葬られたジュリエットの二つだ。ハード系は冒頭のシンプルな口から血を吐いて倒れた姿、捕虜となって射殺された軍服の自衛隊員で、お笑い系は最初に書いたクロカイマン、頭を貫通した矢がさらに鳥を串刺しにした姿だろう。
対照的に可哀想なのは、決して憎み合ってはいないのに離婚する佐野夫妻のエピソードだ。バッティングセンターで快打を連発する由美子がカッコいいが、夫にも言えないストレスを溜めていたのだ。「不妊の原因がオレにあると知ったとき、妻が一瞬ホッとした顔をしたんですよ」。酔い潰れながら、じゅんに屈辱的な不妊治療を受けた経験を語る壮馬が悲しい。

本作を観て思い出したのは僕の連れ合いのことである。連れは精神に病気を抱えており、僕が帰宅すると何度も台所で倒れていたことがある。初めて目前で連れが癲癇の発作を起こしたときは、大変失礼だが「エクソシスト」の悪魔憑きを連想した。しかしこんな経験を何度も積み重ねると、連れが昏倒しているという一大事を見てもそれほど衝撃を受けないのである。
連れが倒れているのを見たら、とりあえず呼吸しているか確認し、声をかけて返答があるか、どこか出血をしていないかを確認する。経験上、明るい場所で立ち上がると錯乱状態が長引くので、何とか暗い寝室に連れて行き横にすれば、そのまま深い睡眠に移行して翌朝は普通に目覚めてくれるのだ。このような発作を起こす原因のほとんどは「薬の飲み忘れ」である。

「薬の飲み忘れ」というと馬鹿げているように聞こえるが、毎日多量の薬を飲まねばならない患者にとっては切実な問題である。発作が家の中ならいいが、屋外で起きた時は救急車で運ばれる騒ぎになった。病院でひどい発作を起こした連れはついに入院し、「服薬カレンダー」で飲み忘れがないように管理するようにして、ようやく酷い発作は起こらなくなった。
なぜ長々と連れの病気について書いたかというと、僕自身が倒れている連れの姿を見て「病気のふりをしてオレを騙しているんじゃないか」と疑ったことがあるからだ。ちょうどバツイチで再婚3年目のじゅんが、結婚生活に倦怠感を覚えて玄関前で立ちすくむファーストシーン。僕には離婚経験はないが、まさに彼と同じ精神状態の時があった事に気が付いたのだ。

じゅんが離婚した時の経緯について語るシーンが妙に怖い。浮気とかDVとか経済的な問題とか分かりやすい理由はなく、ある日突然妻が去って家がもぬけの殻になったという。突然の事態に混乱した彼も、いつしか妻への愛情が消えていたという。夫婦関係というのはかくも脆いものなのか、自分にもあるいは当てはまるのではないかと考えたら怖くなった。
本作のキーワードは「人生には上り坂、下り坂、“まさか”の3つの坂がある」だ。僕は“まさか”に遭遇した経験はほとんどない事に気付いた。連れ合いの病気について書いたが、このレビューを書いている今も、連れと普通に会話している。これは幸運な事ではあるが、予測できない事態が起こったときに、果たして自分はどうなるのだろう?本作を観てそんな怖さを感じたのである。

詳細評価

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