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四月の永い夢 (2018)

監督
中川龍太郎
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3.46 / 評価:253件

若手監督と朝倉あきが組んだ傑作

今回取り上げるのは、今年の5月に公開された日本映画『四月の永い夢』。昨年のモスクワ国際映画祭で「国際映画批評家連盟賞」と「ロシア映画批評家連盟特別表彰」の2冠に輝いた。ロシア人の観客が、派手な見せ場があるわけはなく、何かを声高に主張するわけではない本作のどこに惹かれたのか興味がある。監督・脚本は中川龍太郎。1990年生まれの若手で、詩人から映画監督に転身したという異色の経歴を持つ。
桜と菜の花が同時に満開になる日本ならではの風景にかぶさる、冒頭のモノローグがとてもいい。「・・・ふと目を覚ますと、私の世界は真っ白なまま。醒めない夢を漂うような、曖昧な春の日差しに閉ざされて、私はずっと、その四月の中にいた」。さすが監督の前身が詩人だったというだけの事はある。

主演は現在放映中のドラマ「下町ロケット」にも出演している朝倉あき。彼女の映画でいちばん有名なのは、やはりアニメ「かぐや姫の物語」になるだろう。中川監督は「かぐや姫」を観て朝倉さんの声に惹かれて起用を決めたという。彼女は映画のほぼ全編に写っており、写っていないカットでも少数の例外を除いて必ずその場にいるという、文字通りの出ずっぱりである。
朝倉あきの次に登場するのはモロボシダンこと森次晃嗣。観ている僕は「かぐや姫とウルトラセブンの画面共演だ」と勝手に盛り上がってしまった。セリフは「珍しいね」のひと言だけで、黙々とそば打ちをする姿が印象に残る。彼の他に三浦貴大が染め物工場で働くシーン、元恋人の妹の結婚相手が製材所で働くシーンがある。こうした男性職人が腕を振るう場面は、映画のいいアクセントになっている。

本作の主題歌は、赤い靴というグループが歌う「書を持ち僕は旅に出る」で、映画では3回流れる。最初はイントロの一部分のみがラジオから聞こえ、2回目は浴衣姿の初海(朝倉)がこの曲に乗って夜の街中を歩く名場面で流れるが、途中で中断してしまう。最後はエンドロールでやっとフルコーラスが流れる。思わずスキップを踏みたくなる軽快なメロディーにかぶる重低音が、心のどこか深い部分を揺り動かしてくれる名曲だ。
音楽ではスタンダード・ナンバーの「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」も忘れられない。初海が観る劇中映画として「カサブランカ」の一場面も流れる。音楽教師をしていた初美の元教え子・楓(川崎ゆり子)はジャズ歌手になっており、彼女の歌う「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」も味わい深い。

本作を観て連想したアニメが3本あり、一つは言うまでもなく「かぐや姫の物語」、あと2本は「おおかみこどもの雨と雪」と「君の名は。」である。眠っていた初海が目を覚ますシーンが何度か出てくるが、「かぐや姫」で都に到着した姫が目を覚ますシーンにとてもよく似ていた。なにより朝倉あきの容姿が実写版かぐや姫そのものであり、初海に惚れている志熊(三浦貴大)の「いつの間にかいなくなるのではと心配していた」というセリフも「かぐや姫」を意識したものだろう。

「おおかみこどもの雨と雪」のロケ地は東京都国立市の一橋大学と富山県であるが、本作のロケ地も国立市(三浦の母親・山口百恵の自宅がある)の文教地区と、富山県の朝日町である。「おおかみこども」で印象的だった「白十字」という喫茶店や、富山県の棚田風景も本作に登場する。夏祭りの日に初海や志熊たちが建物の屋上で宴会をするシーンにかぶさるBGMは、「おおかみこども」の主役カップルの交流を思い出させるものであった。
「君の名は。」と共通しているのは、猛スピードで流れる車窓風景が都会から田舎へと移り変わっているシーンだ。色彩の華やかさではやはりアニメに分があるが、地に足の着いた実写風景も捨てがたい。それと子細な事だが、夏祭りで初海がセミロングの髪を結んだ髪型は「君の名は。」の三葉を思い出した。

印象的なセリフを書いてみると、ラスト近くで高橋惠子が言う「年を重ねるというのは、物を獲得するのではなく、物を捨てていく事なのではないか」というのが本作の決めセリフになるだろう。しかし僕はそれよりも志熊が染め物について語る「2~30種類の染料で無限の色を作ることができるが、自分なりの色を見つけるのが難しい」が心に残った。
笑えるシーンもあり、楓がDVの恋人に襲われているというSOSを受信した初海が、慌てて彼女のいるマンションに突入すると、現れたのは無精ひげを生やした中年男だった。「こいつが楓の彼氏かよ?」と一瞬たじろぐのがおかしい(結局人違いだと分かる)。
取りとめもなく書いてきたが、『四月の永い夢』は僕にとっては傑作であり、日本映画も捨てたものではないなという気持ちになった。観終わった後もう一度観たいという気持ちになったのも久し振りだ。中川監督と朝倉あきが今後どのようなキャリアを積み重ねるのか、注目していきたいと思う。

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