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菊とギロチン (2018)

監督
瀬々敬久
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3.50 / 評価:223件

歴史に埋もれた者たちの邂逅

今回取り上げるのは、2018年7月に公開された『菊とギロチン』。上映時間3時間9分もある大作である。脚本も手がけた瀬々敬久監督の作品レビューを書き込むのは「64-ロクヨン‐」(前後編)「最低。」「友罪」に続いて4作目だ。キネマ旬報ベストテンでは、18年の日本映画で2位に選ばれた。
瀬々作品では「友罪」も同年のキネ旬で邦画の8位に選ばれており、2018年は瀬々監督の年だった。主演はオーディションで選ばれた若手の木竜麻生で、彼女の出演映画では「鈴木家の嘘」が18年度キネ旬で邦画の6位に選ばれた。木竜さんも監督と同じく18年に飛躍を遂げたわけだが、勢いを持続してこれからも大活躍してほしい女優さんである。

時代背景は関東大震災後の大正時代末期だ。アニメ「風立ちぬ」でも描かれていたが、不況で社会不安が増大し、日本が戦争への道を突き進む時代というイメージがある。取り上げられるのはそんな時代の仇花とも言えるアナーキストと女相撲だ。本作が抜きん出ているのは、歴史の教科書やテレビ番組にも出てこない、時代に埋もれた要素に光を当てたことである。
アナーキストとは無政府主義者と訳されるが、要するに権威を徹底的に憎み滅ぼそうとする集団のことで、有力な政治家や経済人を目の敵にして殺害しようとする。本作では「ギロチン社」という実在した集団が登場する。彼らの国の将来を案じる純粋な気持ちは素晴らしいが、テロを行った後でどのような国家を建設するのか、その具体策が見えてこない。

映画の冒頭には、次のような詩が字幕で表示される。
「北の空から聞こえている声に向かって、私は叫ぶ。素敵な国はどこにありますか。知っていたら教えてください。罪深い目をした泣き虫の住める国は、どこにありますか。知っていたら教えて下さい。」
社会から除け者にされた者の叫びを思わせる、美しい詩ではある。しかし僕がこの詩を読んで連想するのは、かつて「地上の楽園」と宣伝された北朝鮮やクメール・ルージュが占領していたカンボジア、冷戦時代の共産主義国家である。腐敗した既存の体制を打倒しても、自分たちが権力を握ったとたん、反対する者には徹底した弾圧を加え、密告が横行する社会になるだろう。美しい言葉の裏に、理想と現実のどうしようもない差が存在しており、映画で描かれた「ギロチン社」の実態をズバリ表していた。

もう一つの大きなテーマは「女相撲」だ。関東大震災の後は日照りが続き、天気の神を怒らせて雨を降らせるために、あえて女性を土俵に上げる女相撲の興行が人気を博したという。主人公となるのは新人力士の花菊(木竜)で、農家の嫁だったが夫の暴力に耐えかねて逃げ出して来た。ひたむきに稽古に打ち込む花菊の可憐さは本作の大きな魅力である。
女相撲の一座には訳ありの女性たちが集っている。代表的なのは朝鮮半島出身の十勝川だ。演じる韓英恵は「誰も知らない」でブレイクし、その後も「マイ・バック・ページ」などで印象的な役を多く演じている。十勝川は関東大震災の流言飛語で多くの朝鮮人が殺害される現場を目撃し、その悲惨さにギロチン社の中濱(東出昌大)が思わず土下座をしてしまうほどである。
女相撲の試合で印象に残るのは、行司が「はっけよい、残った!」と軍配を返した一瞬の後に立ち会っていることで、現在の大相撲のようにいきなり相手の顔に張り手をかましたり、かち上げという名の肘打ちを行う力士は一人もいないのだ。

本作に関わってくる集団としては、他に「在郷軍人分会」がある。日露戦争などからの復員兵で構成された集団で、警察とは独立して自警団的な活動をしていると言えばカッコいいが、実際は朝鮮人の十勝川など気に食わない存在を弾圧する人間のクズである。共感度から言えば女相撲、ギロチン社を下回る最下層の存在であろう。
彼らにも戦争で上官に理不尽な目に遭わされたり、郷里に帰っても農家の長男でないためまともな仕事がないという事情も語られる。それはともかく、「天皇陛下万歳!」という掛け声が、非道な行為の免罪符のように使われた時代もあったのだ。彼らに捕われていた十勝川を中濱や古田(寛一郎)が救い出すシーンは、痛快さよりも時代の閉塞感を強く感じさせる場面になっている。

私的評価は★4つだ。女相撲とギロチン社が千葉県船橋市の海岸で交流する場面はとても良く、大正時代を再現したセットも素晴らしい。しかし女相撲の一人である勝虎(大西礼芳)はまさに犬死にで、可哀想すぎた。理不尽な死なんて今も昔もそこら中に転がっているわけだし、勝虎は女相撲の仲間から相撲甚句で送ってもられたので、まだしも幸せというべきか。
いろいろ書いてしまったが、瀬々監督がオリジナル脚本で映画化を実現したことは高く評価すべきだ。こうした事実と虚構を織り交ぜた歴史秘話ものは、まだまだ映画化を待っている題材が多数眠っているのではないかと思う。

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