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愛しのアイリーン
2018年9月14日公開

愛しのアイリーン

R15+1372018年9月14日公開

bal********

5.0

ネタバレ最悪で最高

コンディションがすぐれない人は鑑賞を避けるべき作品。 本当に不愉快な気持ちにさせられる。最高に力のある映画の一つ。現代の日本人が目を背けてはいけないテーマをギリギリのリアリティと残酷さで突きつけてくる。しかも複数。全編本当に勘弁してほしい。 田舎とは関係がない、問題のある年寄りと暮らしたことがない、機能不全に陥っている男尊女卑や家父長制を押し付けられることもない、パートナーは常に欠かさない、外国とは一切関わらず生涯過ごすつもりだ…そういう人にはこの作品の意図は理解しにくいかもしれない。しかし崩壊寸前な田舎もどうかしている年寄りも価値観を更新しないしたくない人々も慢性的な孤独もぐちゃぐちゃなアジア外交も、全て現実に存在している問題であり、今の日本で生きているのなら関係ないではすまされない。 ここまで悪い環境が揃ってしまう岩男のような例は『JOKER』のアーサーばりに稀人といえようが、どれか一つくらいニアミスしている人は少なくないだろう。明日は我が身…と自らの将来を仄暗くイメージしてしまうたびに気分は沈み、背筋が凍り、あらゆることが億劫になってくる。こういう作品も類型はあるが、現代日本が舞台なせいで、一つ一つの出来事が遮蔽されることなくノークッションで刺さってくる。痛い。本当に勘弁してほしい(二度目)。最高。 エロい、という評も目につくが、これはどうも自分はしっくりこない。確かに露出度の高いシーンやベッドシーンもあることはある。 しかし露出していたりセックスシーンだったりしても、個人的にはエロスはあまり感じない。悪いとか下手とかというのではなくむしろ逆、タナトスが喚起されるのだ。セックスが全面に出てくるシーンほど、死臭が漂ってくる。生と死は表裏一体であるとしても、多くのセクシャルなシーンにおいて、相当に死の予感が勝っているように感じた。 唯一「車内でスカート(省略)→ギャアギャア叫ばれ逃げられる」一連のシーンだけは他とは違ってエロ寄りに感じた。桜まゆみだけは登場人物の中で死が遠い(ように見える)からだろうか。自分が桜まゆみ演じる真嶋琴美が好きなだけなのかもしれないが。ともかく、エロシーンのはずなのに、集中治療室で生死の境をさまよっている人物を見ているような気分になってくる。大丈夫かこいつ、危ないなぁ、と。 セックスしても岩男は救われない。すればするほど絶望感が上乗せされていくのは、借金を繰り返す債務者のようも見えた。 完全にモンスターと化している老母、木野花も見ていて本当につらい。痛々しい。生きていられるだけで邪魔なのだが、だからといって殺すのは酷だし、無為に死なれるのだって十分哀れである。パッと見で生産性のない者でも生かすのは豊かな社会の基本だ。生きていてくれたら思いがけず役に立つことだってあるかもしれないし、もしお荷物なだけだったとしても、殺す苦痛のほうが遥かに上回るのだから。 しかし彼女の(観客としては)聞き取り不能な方言演技、とくに怒り時はもはや呪詛のようである。そして基本的に怒っているので、自然と周りの対応もそれなりのものになってゆく。岩男があんななのも、この親あってのことなのだ。「テーマとして親子愛」とか何かで読んだが、自分としては呪いにしか見えなかった。愛も呪いの範疇ということなのだろうか。 岩男は呪われている。だとしたらこの結果も当然というところであり、腑に落ちる。 この老母の呪いは連鎖的なものとして描かれるが、となると最初の出処はどこなのだろうと、ふと思った。 この映画はコンディションが悪い人にはオススメできないと書いたが、そもそも咀嚼力のよわい人も向いていない。画面の衝撃が強くて飲み込むこともままならないだろう。であれば今は黙って身をひこう。レビューで不快だと駄々をこねる時間があるならば、離乳食的映像から始めて、映画身体の強化をはかった方がいい。あるいは一生、距離を置くことだ。不快だとかグロテスクだとかいって文句をいって簡単に低評価を下している人を散見するがそれはあまりに幼すぎる。そんなものはあって当然だ。映画なのだから。 映画というのはあなたを薄く軽くポジティブな気分にさせるため【だけ】にあるわけではない。苦味や痛みすら成分として使って成立する感動もあるのだ。さじ加減が合わないということはあるだろうけども。 今の自分にとってこの映画はしっくりと来た。気分は悪い。

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