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世界で一番ゴッホを描いた男
2018年10月20日公開

世界で一番ゴッホを描いた男

中国梵高/CHINA'S VAN GOGHS

842018年10月20日公開

mam********

3.0

演出過多だが示唆に富む

中々、示唆に富むドキュメンタリーだった。 20数年、真作を生で鑑賞したことが無いまま、ゴッホの模造品を描き続けて生計を立ててきた中国の男。彼なりのプライドと自信を持っていたが、初めて行った取引先のオランダで、自分の描いたものが画廊ではなく土産物屋で無造作に並べられているのを見てしまい、自分は「芸術家」ではなく「職工」扱いだったという現実を突きつけられて、酒におぼれ…。 ほとんどすべての芸術は何かの模倣から始まる。だから「偽造」は罪だが、「模倣」はそうではない。ただ、この男が行っているのは、「偽造」でも「模倣」でもない「模造」。では、「模造」とはアート活動か単なる作業か。この疑問は男の自分の人間としての存在意義そのものへの問いかけとなっていく。 ゴッホ自身が生前、まったく売れず困窮していたことを考えれば、今、美術館で何重もの扉に厳重に守られている真作が、中国の地方の町で、多くの人間たちの生活を支えているというのは、皮肉と言えば皮肉。しかし、それが、時空間を飛び越える芸術というものの得体の知れないパワーなのかもしれない。 ドキュメンタリー映画としては、多少、演出過多のように思った。彼はわかりやすく苦悩し、わかりやすい結論に至る。戸籍のことなど社会問題も少し採り上げているが、一方で渡欧のためのビザ取得が容易だったりと、全体としては綺麗ごとに収まっている。そこに、中国の言論・表現統制への気配りを感じた、と言えば穿ち過ぎだろうか。 もちろん最後の彼の決意は麗しい。 ただ、彼はあるレベル以上のアーティストにはなれないだろう。 生活よりアート。家族より本能。その選択をためらわずに完遂できるのは、人類全体のうちのほんの一握りの天才か異常者しかいない。もし、両立させたとしたら、それは、知らず知らずのうちにでも何かを諦めたか、失ったからだと思うし、少なくとも映画を観る限りでは、彼はそういうタイプではなく、手先の器用なごく普通の家庭人だったからだ。

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