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ファースト・マン (2018)

FIRST MAN

監督
デイミアン・チャゼル
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3.78 / 評価:4,093件

影のある人物描写

  • rintin さん
  • 2019年12月1日 20時09分
  • 閲覧数 683
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

ラ・ラ・ランドと同じ監督・音楽・主演の組み合わせで、こうも違う作品を短期に仕上げるとは!(影のあるキャラクターが主人公という共通点はある)

1961年のモハーベ砂漠での飛行訓練失敗から、腫瘍と戦っていた娘の夭折、NASAでの採用、ジェミニ8号での船外活動の失敗、同僚たちの事故死を経て、アポロ11号月面着陸と帰還までを淡々と描く。英雄物語やスペクタルとしての興奮はほぼない。ドキュメンタリー「アポロ11号完全版」では描かれなかった、月面着陸までの様々な苦労や損失、そしてニール・アームストロング船長と妻ジャネットの人物描写が主題だ。

アームストロングは、私たちが一般的に有能なアメリカ人として思い浮かべるような、ユーモアのセンスがあり家庭的だけど、合理的で時に無情に物事を進めるような人物像とはちょっと違う。ここで描かれている彼は、寡黙で、娘の死を引きずり、操縦士バズのようにうわっ着いたところがなく、仕事に対して責任感のある、でも仕事優先で家族への説明責任をきちんと果たしていない、そしてとっつきにくくユーモアに欠ける人物である。劇中もほとんど笑顔を見せないが、さすがに実物はもう少し感情表現があったのでは?と思うが、映画の主題や、映画が基づく伝記としてはそこを強調したかったのだろう。

たとえば記者会見で、「歴史に名を残すことになると思うがどうか?」と聞かれても記者が望むような返しはせず、うまくいくと信じている、などと官房長官みたいな返答をする(これに対してあきらめた記者がバズに質問をすると、妻のジュエリーを月に置いてくるみたいな返答で笑いをとる)。

またNASAの採用面接では、探査のための探査であってはならない(Exploration for the sake of exploration)と指摘するところに、彼の真摯さを感じる。とは言えこの発言は、真実かどうかよくわからない。もちろんその後のアポロ計画を軌道に乗せたし、宇宙開発史上のマイルストーンであることは確実だ。だが半ばソ連への対抗心から急いで行った探査のための探査という側面はあっただろうし、そのこと自体は別に問題ではないのでは?

月面着陸訓練で地面にたたきつけられ、死に掛けたときも、We need to fail down here, so we do not fail up there. (月面じゃなくて地球上できちんと失敗しておいてよかったのだ)と強弁する。

また彼は、月面に降り立ってさえ、というかそのような場所に降り立ったからこそ、亡くした娘に思いをはせる。

もう一人の主人公である妻ジャネットは、娘カレンの思いに引きずられることもなく、ただ地道に毎日を生きる。普通の安定した生活を送りたかったのに宇宙飛行士の妻になってしまった、と自分の境遇を嘆きつつ、でもしっかりと2人の息子を育て、夫を少し後ろから見守る。でもジャネットも笑顔はほとんどなく、危険を顧みずに仕事を続ける夫への不安に駆られ、家族の将来を案じる。そのストレスが頂点に達し、アポロ11号への出発前夜にニールに対して怒りを爆発させる。でも非常に理にかなった、感動的ですらあるセリフだ。こんな感じ:
I need you to talk to the boys. You gonna sit them down, both of them, and you gonna prepare them for the fact you might not ever come home. You are doing that. You.
(息子たちにきちんと話をして。二人とも座らせて、あなたが無事に戻ってこられないかもしれないという事実に、心の準備をさせて。私じゃなくて、あなたがしなさい。)

ベトナム戦争や人種差別に揺れるLBJ政権下のアメリカ社会との対峙も描かれる。White is on the moon.(黒人は苦労しているのに白人は月面だとさ)。月面着陸の意義を否定する人はいないだろう。でもあの時代に、あの規模でやる必要はあったのか?

JFKの、私たちは月に行くのだ(We choose to go to the moon.)という演説が終盤近くに登場する。「アポロ11号」では、10年以内に月面着陸するという公約を実現したと感動的にとらえられていたが、この映画では特にそういった感慨はない。

それどころか「地球は青かった」シーンや、月面に星条旗を立てるシーンすらない。月面着陸直前のBGMは、何だか不安を掻き立てるもの悲しい旋律だ。

また主人公にすら、非常な危険を冒して月から戻ってきた感慨もなく、業務の一つを淡々とこなしました、という感じだ。帰還後、検疫上の理由から隔離されたガラス越しに夫婦がぎこちない対面をした後、投げキスを交わしてやっと表情が少し緩むところで映画は終わる(ちなみに二人は熟年離婚したようだ)。主人公のキャラと同じように、映画自体も抑制をきかせて淡々としており、安易なカタルシスに頼ることはない。

偉業を成し遂げるかどうかは、幸せや世間の人気とは全く関係なく、努力と継続と運なのだと感じさせる。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 勇敢
  • 知的
  • 切ない
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