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恋のしずく
2018年10月20日公開

恋のしずく

1162018年10月20日公開

ta7********

4.0

役の中で呼吸し生きる川栄李奈に拍手

 演技論なんてまるで存じ上げませんが、観客として観る川栄李奈はおよそ演技と言うレベルなり次元ではなく、殆ど役である橘詩織そのものとして「生きる」ことが出来る凄さが確実にある。ちょいと以前のおバカキャラのイメージもすっかり振り払い、ドラマなり映画なり役者としての評価がうなぎのぼりであるのも良く分かる。だからこその初主演映画にまで到達したわけで、ご同慶の至り。  それにしても小柄で平凡極まりない風情は、まるで映画の主役として華がないように思えるが、そのやり過ぎない絶妙の空気感を確実に表出する様がリーディングロールとしての役割を物語っている。微かに歪む表情や仕草、それらはきっと監督の指示の類ではなく、詩織に扮した川栄と言う等身大の女の子そのもののリアクションでしょう。それをやってのける事自体が凄いと言う他ない。  タイトル程には恋の熟成は希薄で、ラストも思わせぶりに留める控えめさ。ワイン志向が抽選の不運により日本酒に目覚める女の子の成長ストーリー。波乱に富んだお話しとは正反対の、日本酒造りのプロセスを丁寧に追ってゆく。ある意味、平板な展開だが、映画を締めるのが大ベテラン役者である小市慢太郎。杜氏としての職人気質を体現し、まるで父親のような存在感。映画としての大黒柱のよう。遺作となった大杉漣も中盤以前に死んでしまう役だが、作品全体を抱擁する大きさを見せつける。  ただ、ドラ息子の脱皮も、詩織の進路への執着も、今一つ描写が弱く説得力を欠く。逆にサイドストーリーである年上の妊婦への朗々たる愛の告白が浮いてしまう事態が惜しい。酒を造るのではなく「生む」と言う映画の核がしっかりしているから救われるけれど。

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