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女王陛下のお気に入り (2018)

THE FAVOURITE

監督
ヨルゴス・ランティモス
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3.80 / 評価:2585件

人間とは一筋縄では行かないもの

今回取り上げるのは2018年の『女王陛下のお気に入り』。日本では昨年2月に公開された。18世紀初頭のイギリスを舞台にアン女王(オリビア・コールマン)の側近ナンバーワンを目指して争う2人の女性、サラ(レイチェル・ワイズ)とアビゲイル(エマ・ストーン)の物語であり、ザ・フェイバリットという原題は「お気に入り」の他に競馬の本命という意味もある。
アカデミー賞では作品賞・監督賞など9部門にノミネートされ、レイチェル・ワイズとエマ・ストーンは助演女優賞に同時ノミネートされたので9部門10ノミネートになる。その中でオリビア・コールマンが見事主演女優賞に輝いた。僕はこの女優を観るのは初めてだが、よろめきながら宮廷内を歩くシーンは、本当に足の悪い人が歩いているのではと錯覚するほどだ。

私的評価は★4つ。イギリスを舞台にした歴史もの映画は好きなほうで、これまでエリザベス1世、メアリー・スチュアート、ジョージ6世、チャーチル首相、サッチャー首相、そしてダイアナ妃を主役にした映画を観たことがある。どれも指導者や象徴的存在として「さすが上に立つ者は違うなあ」と思わせる場面があるが、本作のアン女王がどうかというと・・・。
コールマンはキャシー・ベイツに似た濃い顔立ちで、女王の威厳を見せる場面はわずかにある。しかし甘党の不摂生な食生活が祟り痛風で足が悪く、体力・気力ともに衰えてしまい政治的決断力は全くない。当時のイギリスはフランスと戦争していたが、そもそも戦争に至った理由が分からない。こういった女王のだらしなさに対する幻滅から、満点評価できなかった。

18世紀初頭といえば日本では江戸時代で、1703年に赤穂浪士の討ち入りが起こっている。イギリスが外国と戦争している時、日本では太平の世で鎖国していた。どちらが国のあり方として正しかったのか、断言することはできないだろう。ただし議会で与党と野党の議員たちが向かい合って論争する場面があり、この時代にすでに国会があることには感心した。
アン女王は17回妊娠したが、我が子は死産や病気などで一人として成人することはなかったという。筆舌に尽くせぬ経験と言うほかはない。「子供が死ぬたびに、自分の中の大切なものが失われていく」という告白には胸を打たれる。人間としては抜け殻同然で、後を継ぐ子供もおらず、残されたのは女王という絶対権力のみとは、そんな彼女の内面を想像すると哀れである。

現在の日本は新型コロナウィルスの感染拡大により、国難と言える状況になっている。メインキャラ3人の中でこの困難に対応できる人を考えてみると、アン女王は一人では何も決められないタイプで、いちばん果断な決断を下せるのはサラだろう。女王に代わって使用人を集めて、王宮の費用管理をテキパキと決裁するシーンは、彼女の能力の高さを表している。
アビゲイルは女王の気持ちを掴むのは上手いが、政治の能力については疑問符が付く。戦争を終わらせてフランスと講和し、増税をやめさせる決断にしても「戦争を続けるのは女王の心情として耐えられないでしょう」という配慮によるものであった。女王に取り入りながらサラを追い落とすアビゲイルは、陰険さと同時にライバルが不在となった心細さも垣間見せる。

前述の通りアン女王はまともに歩けず、杖をついて歩くか車椅子を押してもらうのが移動手段である(舞踏会におけるサラの見事なダンスが、二人の違いを際立たせる)。珍しいのは立位を安定させるため革の装具を付ける場面で、これで足が不自由な女王も乗馬できるのだ。杖や装具がサラを象徴しているとすれば、車椅子がアビゲイルを象徴していると言えるだろう。
表題に書いた「人間とは一筋縄ではいかない」とは、薬草を摘むため森を散策するアビゲイルの姿を見て思ったことだ。彼女は薬草の知識があり、痛風に苦しむ女王のために薬を塗ってやり信頼を得る。この知識は人を助けるだけでなく、サラに毒を持って失脚させるため使うのだ。「ファントム・スレッド」と本作によって、若い女性が森を歩く場面に不吉な影を感じるようになった。

イギリスの王室を描いているため、映像的に観応えのある場面が多い。先に述べた舞踏会でのサラのダンスもそうだ。最大の見せ場はサラとアビゲイルが鉄砲で鳥を撃つシーンで、二人のモノトーンのファッションがカッコいい。この場面はあえて衣装の時代設定を無視したという。インターネットで武器を構えた女の子のイラストで検索すると出てきそうな姿である。
女同士の権力闘争を描いているが、人が死ぬ場面が全くないのは救いである。ただしサラが落馬して引きずられ重傷を負う場面はある。サラとアビゲイルがお互いを尊重して力を合わせていたら、アン女王のもとで最強のコンビとして善政を施していたに違いないが、足を引っ張り合うだけに終わってしまった。能力の高い二人なのに惜しいことである。

詳細評価

物語
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