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ゴッズ・オウン・カントリー
2018年12月2日公開

ゴッズ・オウン・カントリー

GOD'S OWN COUNTRY

R15+1042018年12月2日公開

ookinaharukochan

4.0

英国の荒地に咲く野生の花のような映画

先日、「半世界」を観て物足りなさを感じたばかりだが、本作を観て、私が求めていたのはこういうものだった!というのがわかった。 英国の、常に薄暗い湿った空気感、若いのに孤独に重労働をこなす青年。 いきなり深酒の翌日で吐いているシーンから始まり、うつろな目のままバイクにまたがり、放牧場に向かい、羊の出産に備え、子宮に手(ビニール手袋はしているものの)を突っ込む。 もうあきらめきってしまっているような表情、一生懸命やっても父や祖母からは文句ばかり言われる、くすぶった毎日。 そのすさんだ感じを、ジョニー役のジョシュ・オコナーがきっちりと演じている。 可愛らしい金髪の少年と行きずりの行為に至るが、ちょっとビールでも・・・と誘われてもすげなく断る。 「恋」をしようという思いすらなく、老いた男のように日々をこなす。 人を雇う、ということも自分で決めたことでもなく、父に言われて仕方なくたった一人の応募者を迎えに行く。 期待も何も持ち合わせていないし、相手を見て移民だとわかるや、見くびった態度を示す。 これが恋の始まりになるとは・・・ そこから仕事を一緒にしていくうちに、ジョニーの頑なな心がほんのすこしずつ、ほぐれていく。 くすぶった風景の、地道な仕事ながら、じょじょに二人でやることに喜びが生まれ、そして・・・ 二人が結ばれるまでの流れが、ほんとうに秀逸。 たまたま季節労働でやってきた男がゲイだなんて、そんな偶然ありっこない!!と思わせない、自然な流れなのである。 家を離れて放牧場で羊の出産を介助しながら二人きり、睦まじい時間を過ごすのもつかの間、家に戻ってからは家族の目を盗んで逢瀬を重ねる。 でもそれも、いわゆるキラキラの夢のような時間、という風に大げさに描いているわけではなく、地道な彼ららしい、しっとりと落ち着いた愛を交わす。 (・・・といっても、獣のように睦み合う姿も描かれはするが) 監督は実際に実家が農場で、間近にそういう暮らしを見てきた人なだけに、一つひとつの描写がリアル。 泥、崩れる壁、寒々とした景色、それでいてだだっ広く風景画のような風景。 羊が生まれてくる姿、死んだ羊の皮をはいで子羊に着せてやる姿。 ごく当たり前に、内臓が見えていて、ぬめっとした触感が伝わってくる。 人間関係も、淡々と、それでいて濃密に描かれる。 ジョニーもゲオルグも、あまり感情をあらわにしないタイプだし、セリフもそれほど多くない。 父が倒れて、ちょっとした行き違いからいったんは別れるが、決して言い争いをするわけでもなく、ひっそりとゲオルグは去る。 ゲオルグの残したセーターに腕を通し、それまで行き詰まるように生きてきたジョニーが、せつない表情をするのが、心に刺さる。 最後は決心をして、ゲオルグの居所を突き止め、会いに行く。 すげなくされて何も言えないジョニーが、意を決して思いを伝える。 この「ためらい」の間、思いを交わすさりげなさ、そして意地になっていたゲオルグが寄り添う・・・この流れが、本当に純粋な恋愛として描かれている。 ゲオルグの目がなまめかしく輝くさまといったら!! 生々しい場面もあり、決して美形の人たちの少年愛もののような美しさとは次元がちがうが、荒地に咲く、りんとした野生の花のようなうつくしさを持った映画である。

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