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アストラル・アブノーマル鈴木さん
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アストラル・アブノーマル鈴木さん

872019年1月5日公開

Dr.Hawk

3.0

ネタバレ自意識過剰って、普通だよね

2019.1.7 イオンシネマ京都桂川 2018年の日本映画 Youtube配信ドラマを再編集し映画化に踏み切った作品 Youtuberの主人公が承認欲求の中でもがき、「普通」とは何かを学んでいく物語 監督&脚本は大野大輔 物語は主人公・鈴木ララ(松本穂香)の自己紹介から始まる 彼女は北関東・群馬の田舎町に住む女性で、自称「グレートYoutuber」としてぶっ飛んだ動画をUPしている 一応塾のバイトで生徒を教えているものの、生徒は望月(谷のばら)ひとりで、町にはブランドもエスカレーターもwi-fiもない そんな彼女の元にある日、TV局から取材の依頼が入った だが彼女の動画を見た上司はララをTVに出す訳にはいかないと反発 企画を立ち上げたジャーナリストの神野(広山詞葉)は、ララを刺激しないように別の企画の撮影を始めた だが「メディアなんて嘘だらけ!」と常日頃から思っていたララは逆上し、行動はさらにエスカレートしていく 物語はTVの取材が頓挫した理由を求めて、ララが上京するところから動き出す 彼女が向かった先、それは数年前に家を出た双子の妹リリ(松本穂香)の家だった かつて二人は同じように芸能生活に憧れて努力をしたが、ララよりも遅くに活動を始め努力が足りないと思っていたはずのリリだけが夢を叶えた 同じ容姿なのに何故自分だけが夢の世界に行けないのか? 彼女が「こじれた」発端はここにあった 物語の主題は「普通」であり、これは塾での会話に由来する 現代国語を教えている際に「作者の意図は? 普通に考えばわかるでしょ」と言ったララの言葉に対し、望月は「普通って難しくないですか?」と返す この会話が「ララの異常性の正体」を紐解く鍵となっている ララの思う普通は「嘘つきメディアが描く都会」であり、「承認欲求に付随する特別感」である それに対抗するように「普通ではないこと」を動画に撮り、それはまるで相手の感情を厭わない「自我の感情の発露」に過ぎない 「普通ではないよ」と教鞭を振るうことで「自己」を主張する この積み重ねを彼女は「セルフプロデュース」だと言う 彼女が眼帯をつけるのも、奇をてらった動画を上げるのも、埋没する田舎女の不甲斐ない抵抗以上の何物でもなかった そんな折、望月はララに頼んで動画を撮ってもらうことにした 大学に行く前にやりたいことをしたい シンガーソングライターを目指している彼女はギターをかき鳴らして音楽を奏で、ララはそれをじっと見守った そして彼女の演奏を見て泣き崩れるララ 嗚咽交じりに撮影を放棄し立ち去る おそらくはそのままの動画がYoutubeに上げられたのだろうか それが評価されて望月は異世界へと旅立ってしまった 容姿が同じでも結果は違い、それは覚悟の違いだとリリに言われたララは、覚悟なんてまったくない望月の趣味に平伏すのである そこには「才能」があって、彼女は「創造」を以って世の中に現れたのである これまでにララが積み上げてきた「非日常」は思考の末の突飛に他ならず、それは観客の心の「負の動き」を生み出すだけの異物でしかなかった 自分の中にある「感情」を表現すること これはクリエイティブに繋がる道であるが、ララが発露した負の感情は誰もが抱え封印するものである それを敢えて出してみることで得られた承認とは何だったのだろうか そして夢の世界に行ってしまったはずのリリは「普通の女性の幸せ」とともに帰ってきた この世界で最も「普通でいてほしかった」「彼女よりも特別でいたかった」という感情の帰結 抱えてきた感情の無意味だけがそこに残ったのである エンドロールの感情任せのフリーダンスはおおよそ素人のフラつきだが、彼女らしさが存分に表現されていた 才能との出会い、暴走原因の消失 それらはかつての自分の分岐点へと誘うに十分なエピソードだったのであろう いずれにせよ、シュールすぎる前半とミステリアスな過去、一人二役を演じた松本穂香の演技力など、思った以上に高いクオリティは感じられた だが悲しいかな、さすがに一般受けは厳しい映画であり、よくこの企画が通ったなというのが本音である アストラルとは「星のような」という意味があるが、これは地球上から乖離した距離とも取れ「ぶっ飛んだ」という意味合いがあるように感じた ゆえにタイトルは「これ以上ないくらいぶっ飛んだ(普通の)鈴木さん」と読めてしまう (鈴木姓は一般的に多い苗字で、ここにララと言うキラキラ系ネームでないところがポイントだと思う) 普通なんてものはどこにもなく、自己承認は自己表現の発露の方法論に過ぎない 「やりたいことをやる」という無垢が作り出す創作は、考え抜いた凡人の奇抜の遥か上を行く だからこそ、ララは最後に動きたいように動いて見せたのだと感じた

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