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運び屋 (2018)

THE MULE

監督
クリント・イーストウッド
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4.00 / 評価:3617件

多田野曜平氏の吹替えに驚き

今回取り上げるのは、昨年3月に公開された『運び屋』。クリント・イーストウッド監督の作品レビューを書き込むのは11作目で、その中でイーストウッドが主演した映画の作品レビューは「グラン・トリノ」に続いて2作目だ。昨年のキネマ旬報ベストテンでは外国映画の4位に選ばれた。日本での興行収入は7億6千万円だが、世界では1億6千万ドルの興収を稼いだという。
僕の連れ合いは、本作を鑑賞していた僕に「あんた、ずいぶん集中して観てたねえ。よっぽど映画が好きなのね」と声をかけた。これまで映画を観ている自分の顔を気にしたことがなかったのでハッとした。なぜ本作にそれほど集中したのか考えてみると、小さい頃にテレビの洋画劇場でイーストウッドの映画を何作も観て、その時のワクワク感を思い出したのかも知れない。

僕は本作を日本語吹替え版で観たが、イーストウッドの声が山田康雄にそっくりなので驚いた。後で調べると多田野曜平という人が吹替えを担当しているという。僕が本作に惹かれたのは、多田野さんの「山田さんボイス」で、テレビの洋画劇場が全盛だった時代に夢中になってブラウン管にかじりついた、かつての僕の心情により近づいたからなのだろう。
冒頭のシーンは色鮮やかなユリの花である。主人公アール・ストーンはユリの栽培・販売を手がけており、彼のユリは品評会で優勝するなど高い評価を受けている。アメリカの農業といえば小麦・綿花・トウモロコシ・牧畜といった大規模農家を連想するが、日本が圧倒的に強いと言われる花卉栽培の業者がアメリカ映画の主人公になるのは珍しいと思った。

彼は商談や品評会への出席のため、車でしょっちゅう各地を旅している。これまで警察に摘発された経験がなく、これが新たな仕事に非常に役立つことになる。仕事優先のため家庭を顧みず、娘の結婚式を忘れて品評会に出席する始末。同業者からは深く慕われているが当の家族からは見放され、特に娘は結婚式の件で父親を恨み、口も利いてくれなくなっている。
最初の場面は2005年だが時代は2017年に飛び、あれほど勢いがあったアールの商売は破綻し、農地は人手に渡ってしまう。理由は急成長したインターネット販売に対応できなかったためであるらしいが、映画はその辺の経緯は大胆に省略している。映画ならではの省略は後半にもあり、メキシコの麻薬組織の内部で反乱が起きてボスが殺される経緯が省略されている。

殺されるボスを演じるのはアンディ・ガルシアで、黄金色の銃でクレー射撃を楽しむシーンがいかにも麻薬王という感じだった。彼は「ジオストーム」ではアメリカ大統領を演じたことがあり、意外に役の振れ幅の大きい人なのだ。この麻薬王は人の好い一面があり、豪華なパーティーを開いてアールを招待し、アールも犯罪組織の集まりなのに楽しんでいるのがおかしい。
アールは朝鮮戦争に従軍した退役軍人で、戦争が起こったのが1950年だから当時20歳だとすると、2020年時点で90歳ということになる。この歳になっても車を運転できるとは羨ましいが、僕がむかしアメリカに旅行したとき、ガイドさんから「アメリカは車社会だから、車がないと何もできない。歩くのがやっとの独居老人も自分で車を運転する」と聞いたことがある。

退役軍人たちがパーティーを開くシーンがあるが、ディスコのようなホールでダンスパーティーをするのがアメリカらしいと思った。日本だったら、その手の戦友会ではカラオケで「同期の桜」などが歌われるのが定番だろう。若い女性もダンスに参加しているが、パーティーのために雇われたコンパニオンなのか、退役軍人の身内なのか気になるところである。
パーティーの場面は、この他にいかにも善男善女の集まりといったユリの業者たちのパーティー、アールを慕ってくれる孫娘の婚約パーティー、プール付きの豪邸で行われる麻薬王のパーティーがある。各々の雰囲気が、アールが関わる団体の性格を表していて面白い。いちばん大事なパーティーは娘の結婚披露宴だったはずだが、アールが不参加だったのが辛いところだ。

他に注目すべきキャストは、警察のお偉いさんを演じるローレンス・フィッシュバーンがいる。彼は1982年の「ロサンゼルス」では痩せた犯罪者を演じていたが、今や貫録をつけて偉い役を演じているところは年月の経過を感じさせる。麻薬捜査官役のブラッドリー・クーパーは、アールが「運び屋」と知らずに食堂で人生について会話を交わす場面でホロリとさせる。
本作のアールは商売が立ち行かなくなり、家族に見放され、挙句の果てに犯罪組織の手先になるという、人としてドン詰まりの状態である。しかし映画の雰囲気は意外に明るく「挫折した者の再生物語」風であるのが面白い。麻薬の運び屋という犯罪者の人生に寄り添って、共感した気持ちになれるのは映画ならではの楽しみである。

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