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東野圭吾 手紙

cyborg_she_loves

3.0

ネタバレ描き方に深みが足りない

これは山田孝之さん主演の2006年の映画ではなく、2018年にテレビ放映された2時間スペシャルドラマの方の「手紙」です。主人公(殺人犯の弟)の武島直貴は亀梨和也さん。その恋人(やがて妻)の白石由実子は本田翼さんが演じています。なんかついこないだまで女子高生役とかがぴったりしてた翼ちゃんがもうママさん役かー、とちょっと感慨。  2019年にBlu-rayとDVDも発売され、今では一般の映画と同様にレンタルなどでいつでも視聴することができます。  原作は、世の評価も高く、直木賞候補にもなり、映画化もされた、東野の代表作のひとつ。  殺人犯の弟だというだけで、じつは真面目で成績も優秀な人物なのに、周りじゅうから偏見の目で見られ、差別され、不遇な人生を送る羽目になった1人の男が、どうやって人生を立て直してゆくかを丹念に描いた作品です。  ですが私は(東野氏の他の作品と同様に)この原作そのものに共感できません。  兄の剛志(佐藤隆太さん)は、一方で、自分を犠牲にしてでも弟を大学へ行かせてやりたい、弟が好きだった曲を今でも大切に思っている、という優しい思いやりの持主でありながら、他方で、弟を大学へ行かせるための金を他人の家に押し入って盗もうとし、見つかると相手を殺害する、という冷血な人物でもある。  なんかジキルとハイドみたいで、人格の統一がとれてない。こんなやつ本当にありうるか、と思ってしまう。  弟の直貴は、殺人者の弟という噂が立っただけで、仕事を辞めさせられ、あるいは左遷され、さらには結婚も破談になり、云々という悲惨な人生を余儀なくされるわけですが。  そういう差別の描き方は、「まあそうなるだろうな」という枠の中に納まった、型どおりのもので、特に目新しさはありません。私にはむしろちょっと退屈でした。  直貴の勤める会社の社長(小日向文世さん)が、「差別はなくならない、差別は人間の不可欠な本質なのだ」という意味のことを直貴にむかって説くシーンがあります。  私は、この部分をもっと深く掘り下げて欲しかったと思いました。  コロナ社会となってしまった現代では、こういう差別がそこらじゅうで起こっています。ある大学でクラスターが発生したと報道されると、近所の飲食店の入口に「○○大学生は入店お断わり」という紙が貼られる。マスク警察、自粛警察などと呼ばれる人たちが、マスク着用や営業自粛の要請に従わない人たちを見つけては暴言を浴びせ、ネットなどで吊るし上げる。  だけどこれは、「差別は悪だ」「差別をやめよ」と声を張り上げるだけで解決する問題ではありません。  危険の可能性のあるものに近づきたくない、排除したい、という思いは誰にでもあるもの。そういう思いを持つなと言われても「はいそうですか」と簡単に従えるようなものじゃない。差別はよくないと頭ではわかっていても、マスクも手洗いもせずにべたべたと飲食物を触るような人には誰だって近づきたくないと思うのは自然なことでしょう。  犯罪者の家族を差別する人たちは、単なる悪人ではない。誰にだって、自分を守りたいという思いはある。そういう人たちの中で、殺人者の弟として生きていくにはどうすればいいか。  そういうところを深く突っ込んで描く視点が、この作品には欠けているように思います。  最後は結局、兄との縁を切ることで直貴は新しい人生への一歩を踏み出そうとします。  (最後に刑務所への慰問コンサートで直貴は思い出の「見上げてごらん夜の星を」を歌って大泣きし、まあこれが感動のエンディングという演出になってるわけですが、これは兄と縁を切るための最後の贈り物です。この歌を最後に直貴は「殺人者の弟」ではない人生を送ろうとするわけです。殺人者の弟として生きていくにはどうすればいいか、という問題が、最後の最後で切り捨てられています。「そんなのムリです」が答になってます。)  重い問題を提起していて考えさせられるし、豪華な俳優陣の演技は総じて優れていると思いますし、一見の価値はあるとは思いますが、満足度としてはどんなに高くなかったです。  蛇足。  亀梨くんは歌手なのに歌へたですね~。「一度死んでみた」の最後で広瀬すずちゃんが「水兵リーベー」と歌うけど、本業の歌手じゃないすずちゃんの歌の方が、「魂こもってるね」という台詞のとおり、はるかにこっちの心にぐっときます。

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